14.2.背景:Quantitative System Performance

14.1.導入」の続きです。( 目次はこちら

14.2. 背景


 新しい応用システムに対するユーザの満足は、受入れ可能で一貫した性能をシステムが提供する能力にかなりの程度、依存している。このセクションで我々は設計段階の間に大規模システムの性能を評価する、初期のいくつかの試みを記述する。いくつかの共通なテーマが明確になるだろう。これらは次のセクションで検討される。
 1960年代中ごろ、GECOS IIIが、統合バッチ・タイムシェアリング・システムとしてゼネラル・エレクトリックによって設計されつつあった。初期設計が完了したのち、2つの活動が並行して始まった。1つのチームは実装を開始し、もう一つのチームは後続の設計と実装の決定の効果を予測するためのシミュレーション・モデルを開発した。
 シミュレーション・モデル化チームは次善の結果になった。実際のシステムの骨格バージョンが動作可能になったのち数ヶ月までモデルはデバッグされなかった。よって、モデルによって回答されることの出来た設計の疑問の多くが代わりにシステムによって答えられた。モデルは新しく保っておくことが出来なかった。モデルの予測は信用されなかった。というのはシステム設計者達はシミュレーション方法への信頼を欠いていたからである。
 プロジェクトの期間を通しての設計決定間の相互作用を理解するこの試みは失敗した。他の試みはより成功していた。
 1960年代の終り頃、TSOはIBMのバッチ指向MVT・OSのためのタイムシェアリング・サブシステムとして開発されつつあった。最終設計と最終システムの最初の実装の間に、初期プロトタイプがテスト環境で測定され、待ち行列ネットワーク・モデルのパラメータの値が、これらの測定からと最終設計の詳細仕様から決定された。
 モデルによって予測された平均応答時間はプトロタイプで測定されたものよりかなり低かった。しかし、類似のモデルがMITのCTSSシステム(セクション6.3.1参照)のために使用されて成功していたので、設計チームはこのモデルに信頼を持っていた。チームは仕様への準拠についてプロトタイプをチェックし不一致を検出した。スケジューラが不要なロック機構を持って実装されており、それがソフトウェア・ボトルネックを生み出していた。これが修正された時、モデルの予測とプロトタイプの動作の間に矛盾がなくなった。
 1970年代初期、MVSはIBMの仮想メモリ・マシンの新ファミリ用のバッチ指向OSとして設計され開発されつつあった。このシステムの早期バージョン、OS/VS2 リリース2のためにシミュレーション・モデルが開発された。モデルの目的はシステム設計者に性能情報を提供することであった。
 モデルの妥当性確認は問題であった。設計段階では、主要モデルパラメータは値の範囲としてのみ表現されていた。性能予測は、システムを通るワークの機能的フローをモデルが表現するのを保証するために、妥当性についてチェックされた。このタイプの感度分析は精密なパラメータ値がないことの埋め合わせをした。システムは設計と実装の間、たえまなく変化していった。この問題を削減するために、モデル構築者はシステムの設計者と実装者との密接な業務関係を維持した。
 モデル化の作業は成功したと考えられた。なぜならその推奨のいくつかは直接の、利益のある効果をシステムの設計に及ぼした。
  1970年代中頃、Advanced Logistics Systems(ALS)が、アメリカ空軍のために開発中であった。設計完了後、初期実装中に、設計におけるボトルネックを決定し、よりよい性能をもたらす設計の選択肢を推奨するために、モデル化スタディが着手された。第8章で説明したような階層的モデル化が適用された。ALS内の4つの主要サブシステムが特定され、それらはCPUとメモリ、システム・ディスク、データベース・ディスク、テープであった。階層的モデルはこのラインに沿って構築され、モデル化作業は管理可能なコンポーネントに分解された。パラメータ値は測定と詳細仕様の組合せから来た。
 モデルの解析的解とシミュレーション解の両方が得られた。大部分のALSの特徴は解析的解の中に捉えることが出来た。解析的結果の妥当性を確認し若干のシステム特性をさらに詳しく調査するためにシミュレーションが用いられた。
 モデル化スタディは、作業負荷が増加するにつれて、最初にボトルネックはシステム・ディスク・サブシステムに、次にCPUとメモリのサブシステムに降りかかった。両方の予測が早期生産作業で確認された。よってスタディは成功したと判断された。
 我々が記述した個々の成功したプロジェクトは異なる基礎の方法を使用した。TSOについては解析的モデル、MVSについてはシミュレーション・モデル、ALSについて階層的解析モデルとシミュレーション・モデルである。しかし、これらのプロジェクトは多くの基礎となる原則を共有していた。次のセクションでは、我々はこれらの原則と他の原則を提案するシステムの性能をスタディするための一般的枠組の中に含める。


14.3.一般的枠組み」に続きます。