イギリス流のまわりくどさ

第二次世界大戦でロンドンがドイツ軍の空襲を受け、ドイツ軍のイギリス上陸の可能性が予想されていた頃のことです。イギリス政府は、未来の国王に予定されているエリザベス王女やその妹のマーガレット王女に、どこか安全なところに疎開してもらう計画を立てていました。例えばイギリス連邦に属するカナダに疎開する、という案がありました。しかし当時の国王ジョージ6世は、国民が苦しんでいる時に自分の娘たちだけを安全地帯に避難させることをよしとしませんでした。そして、ジョージ6世の妃エリザベスはイギリス国民に向けて、以下のような公式声明を発表しました。

「子供たちは、私なしに去ることはない。
  私は国王なしに去ることはない。
  国王が去ることは決してない。」


「物語 英国の王室」より

物語 英国の王室―おとぎ話とギリシア悲劇の間 (中公新書)

物語 英国の王室―おとぎ話とギリシア悲劇の間 (中公新書)


名文句だと思います。でも、聞いたあとで

  • 国王が去ることはない。ゆえに王妃が去ることはない。
  • 王妃が去ることはない。ゆえに子供たちは去ることはない。

と三段論法を2回、頭の中で行わなければならず、まわりくどい感じがします。でも、このまわりくどさがイギリス人の好みなんだろうな、と想像します。