リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(4)

リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(3)」の続きです。私の導いた近似式はリー・ロントンの近似式よりも精度が劣っておりました。とはいえ、それほど値に差があったわけではありません。利用率uを変化させた場合の平均待ち行列L_qの変化の様子を、この2つの近似式で比較してみました。

このグラフを見ると、差はほとんど無視してよいことが分かります。では、2つの近似式はほぼ等しいと考えてよいでしょうか?
上の比較結果はs=2の時の結果でした。s=10、つまり装置が10台ならばどうなるでしょうか?


私のほうの近似式は、「リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(2)」で行った考察をそのままたどっていけば

  • CT_{q(M/D/10)}\appro\frac{1}{20}{\cdot}\frac{u}{1-u}t_e・・・・(15)

という式にたどり着きます。これから平均待ち行列L_{q(M/D/10)}の式を、リトルの法則を用いて導き出せば、

  • L_{q(M/D/10)}=CT_{q(M/D/10)}{\times}\frac{10u}{t_e}\appro\frac{1}{2}{\cdot}\frac{u}{1-u}t_e

つまり

  • L_{q(M/D/10)}\appro\frac{1}{2}{\cdot}\frac{u}{1-u}t_e・・・・(16)

となり「リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(3)」の式(13)とまったく同じ式になります。つまり、私の近似式ではsの値に依存せずにL_qは式(16)の右辺で近似されます。
一方リー・ロントンの近似式から導かれるL_qsの値に依存します。

  • CT_{q(M/D/s)}{\approx}\frac{1}{2}CT_{q(M/M/s)}・・・・(4')

から

  • L_{q(M/D/s)}{\approx}\frac{su}{2t_e}CT_{q(M/M/s)}・・・・(17)

ここでCT_{q(M/M/s)}は「M/M/mにおける待ち時間の式の導出(1)」にあるように

  • CT_{q(M/M/s)}=\frac{s^{s-1}u^s}{s!(1-u)^2}{p_0}{t_e}・・・・(18)
    • p_0=\frac{1}{\Bigsum_{k=\0}^{s-1}\left{\frac{(su)^k}{k!}\right}+\frac{(su)^s}{s!(1-u)}}・・・・(19)

なので、式(17)は

  • L_{q(M/D/s)}{\approx}\frac{s^su^{s+1}}{2s!(1-u)^2}{p_0}・・・・(20)

となります。
式(16)と式(20)について、利用率uを変化させた場合の平均待ち行列L_qの変化の様子をグラフ化したものが下のグラフです。

今度は、結構差が出ています。ですので「2つの近似式はほぼ等しいと考えて」はいけないことになります。
それでは、どちらのほうが精度がよいのでしょうか? 再び「逆瀬川氏の近似式の論文の和訳(3)」の「表3.4 \rho=0.9の時のGI/G/s待ち行列\tilde{L}_qL_q」を参照してみるとL_{q(M/D/10)}=3.10でした。これに対し、私の近似式の与える値はL_{q(M/D/10)}=4.05リー・ロントンの近似式からはL_{q(M/D/10)}=3.01でした。他のuの値の時の真の値が分からないので断言は出来ませんが、どうもリー・ロントンの近似式のほうが精度がよさそうです。


やはり、なんとかしてリー・ロントンの近似式の成り立つ理由を探さなければなりません。