リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(5)

リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(4)」の続きです。
リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(2)」の考察は間違っていなかったと思うのですが、結果はあまり思わしくありませんでした。おそらくKingmanの近似式c_a=1以外の待ち行列に使う場合には精度が落ちるのでしょう(よく分かりませんが・・・)。そこで、別な方向から考えてみました。


M/G/s待ち行列を考えます。M/G/1待ち行列の平均待ち時間を求めた時(ポラツェク・ヒンチンの式。「M/G/1における待ち時間の式の導出(1)」「(2)」参照)の推論をM/G/sの場合についてなぞっていきます。


ジョブが到着した時に待ち行列で待っているジョブの個数(到着したジョブは個数に含めない)を考え、その平均値を考えます。到着過程はポアソン過程なのでPASTAを用いることが出来ます。PASTAによってこの個数の平均は、待ち行列の(時間)平均の長さL_{q(M/G/s)}になります。
次に、ジョブが到着した時にs台の装置が全て処理中であるとして、そのうちのどれかが最初に空く(=処理完了になる)までの時間を考えます。これは確率変数なのでRで表します。その平均値をE(R)で表します。
また、s台の装置が全て処理中である場合の待ち行列の平均の長さを\hat{L}_{q(M/G/s)}で表します。また、s台の装置が全て処理中である確率を\Pi_{(M/G/s)}で表します。そうすると\hat{L}_{q(M/G/s)}L_{q(M/G/s)}の定義から

  • L_{q(M/G/s)}=\Pi_{(M/G/s)}{\times}\hat{L}_{q(M/G/s)}+(1-\Pi_{(M/G/s)}){\times}0

つまり

  • L_{q(M/G/s)}=\Pi_{(M/G/s)}{\times}\hat{L}_{q(M/G/s)}・・・・(1)

が成り立ちます。


今到着したジョブが待ち行列で待つ時間の平均値を考えます。到着した時点でもしs台の装置が全て処理中であるならば、平均\hat{L}_{q(M/G/s)}個のジョブが待っているはずです。1個のジョブの処理にt_eだけ時間がかかりますが、装置はs台あるので、\hat{L}_{q(M/G/s)}個のジョブが全て処理されるのに平均

  • \hat{L}_{q(M/G/s)}{\times}\frac{t_e}{s}

だけ時間がかかることになります。さらに現在処理中の装置のどれかが空いてから、これらのジョブの処理が始まるので、今到着したジョブが待ち行列で待つ平均時間は

  • \hat{L}_{q(M/G/s)}{\times}\frac{t_e}{s}+E(R)・・・・(2)

になるように思われます(あとで考えるとそうとも言えないことが分かりました)。
もし、1台でも空いている装置があれば、もちろん待ち時間はゼロです。
s台の装置が全て処理中である確率は\Pi_{(M/G/s)}ですから、ジョブが待ち行列で待つ時間の平均CT_{q(M/G/s)}

  • CT_{q(M/G/s)}=\Pi_{(M/G/s)}\hat{L}_q\frac{t_e}{s}+{\Pi_{(M/G/s)}}E(R)・・・・(3)

となります。式(1)を考えると式(3)は

  • CT_{q(M/G/s)}=L_{q(M/G/s)}\frac{t_e}{s}+{\Pi_{(M/G/s)}}E(R)・・・・(4)

と書けます。ここでL_{q(M/G/s)}についてリトルの法則を適用すれば、

  • L_{q(M/G/s)}=CT_{q(M/G/s)}{\times}\frac{su}{t_e}

なので式(4)は

  • CT_{q(M/G/s)}=CT_{q(M/G/s)}u+{\Pi_{(M/G/s)}}E(R)

となり

  • CT_{q(M/G/s)}(1-u)={\Pi_{(M/G/s)}}E(R)

よって

  • CT_{q(M/G/s)}=\frac{{\Pi_{(M/G/s)}}E(R)}{1-u}・・・・(5)

となります。


リー・ロントンの近似式を根拠づける試み(6)」に続きます。