GI/G/s待ち行列の平均待ち時間の近似式(4)

GI/G/s待ち行列の平均待ち時間の近似式(3)」の続きです。
ここで用いるのはGI/M/sとGI/M/1の平均待ち時間の関係です。つまり、CT_q(GI/M/s)CT_q(GI/M/1)の関係です。この関係を以下のようにして求めます。


GI/M/s待ち行列の到着時刻状態分布に向けて(2)」の式(17)(ここでは番号を振り直して式(22)とします)によれば、k{\ge}sの時、時間平均の確率でシステム内にジョブがk個ある確率p(k)

  • p(k)=ub^{k-s-1}(1-b)\Pi(GI/M/s) ただしk{\ge}s・・・・(22)

で表されます。ただし、\Pi(GI/M/s)は、到着したジョブが全ての装置が処理中であるのを見る確率です。これを用いて、平均待ちジョブ数L_q(GI/M/s)を求めます。

  • L_q(GI/M/s)=\Bigsum_{k=s}^{\infty}(k-s)p(k)・・・・(23)

なので、これに式(22)を代入すると

  • L_q(GI/M/s)=\Bigsum_{k=s}^{\infty}(k-s)ub^{k-s-1}(1-b)\Pi(GI/M/s)=u\frac{1-b}{b}\Pi(GI/M/s)\Bigsum_{k=s}^{\infty}(k-s)b^{k-s}
    • =u\frac{1-b}{b}\Pi(GI/M/s)\Bigsum_{k=0}^{\infty}kb^k

ここで「補足」の式(2)(ここでは番号を振り直して式(24)とします)

  • \Bigsum_{k=1}^{\infty}kr^{k-1}=\frac{1}{(1-r)^2}・・・・(24)

を用いれば

  • L_q(GI/M/s)=u\frac{1-b}{b}\Pi(GI/M/s)\frac{b}{(1-b)^2}

よって

  • L_q(GI/M/s)=\Pi(GI/M/s)\frac{u}{1-b}・・・・(25)

ここで平均待ち時間CT_q(GI/M/s)を求めるためにリトルの法則を用いると、スループットsu/t_eなので

  • CT_q(GI/M/s)=L_q(GI/M/s)\frac{1}{su}t_e・・・・(26)

となります。式(26)に式(25)を代入して

  • CT_q(GI/M/s)=\Pi(GI/M/s)\frac{u}{1-b}\frac{1}{su}t_e

よって

  • CT_q(GI/M/s)=\Pi(GI/M/s)\frac{1}{s(1-b)}t_e・・・・(27)

ところで「GI/M/s待ち行列の到着時刻状態分布に向けて(2)」の式(11)(ここでは番号を振り直して式(28)とします)

  • b=\Bigint_0^{\infty}\exp\left(-\frac{(1-b)st}{t_e}\right)g(t)dt・・・・(28)

bの値を決定する方程式でした。


さてここで、GI/M/sとGI/M/1の2つの待ち行列のジョブの到着間隔の分布が同じ種類であるとはどういうことを意味するのか考え直してみます。例えばこの2つの待ち行列がどちらも2次のアーラン分布である、というのはどういうことを意味するのか考えてみます。同じ2次のアーラン分布であっても平均値は異なるでしょう。平均値が異なっても同じ2次のアーラン分布といえるのは、2つの分布確率密度関数g_1(t)g_2(t)の間に

  • g_1(t)=ag_2(at)・・・・(29)

という関係があるからだということが分かります。式(29)は片方の分布のt軸方向を1/aに縮小し、密度軸方向をa倍に拡大するともう片方の分布になることを表しています。密度軸方向をaに拡大する理由は、そうしないと全確率が1にならないからです。つまり

  • \Bigint_0^{\infty}g_1(t)dt=\Bigint_0^{\infty}ag_2(at)dt=\Bigint_0^{\infty}g_2(at)d(at)=\Bigint_0^{\infty}g_2(t)dt

なので、式(30)が成り立つ場合には、

  • \Bigint_0^{\infty}g_2(t)dt=1

ならば自動的に

  • \Bigint_0^{\infty}g_1(t)dt=1

になります。2つの分布の間に式(29)が成り立つことを「2つの分布の種類が同じである」と言うことにしましょう。GI/M/s待ち行列とGI/M/1待ち行列で平均処理時間がどちらもt_eであったとします。そしてGI/M/sのg(t)g_s(t)と表しGI/M/1のg(t)g_1(t)と表すことにし、さらに

  • g_s(t)=sg_1(st)・・・・(30)

が成り立つとしましょう。つまりg_s(t)g_1(t)は種類が同じです。両方の待ち行列の装置の稼働率を求めてみると、GI/M/sの稼働率u_s

  • u_s=\frac{\Bigint_0^{\infty}tg_s(t)dt}{\frac{t_e}{s}}=\frac{\Bigint_0^{\infty}tsg_1(st)dt}{\frac{t_e}{s}}
    • =\frac{\Bigint_0^{\infty}stg_1(st)d(st)}{t_e}=\frac{\Bigint_0^{\infty}tg_1(t)dt}{t_e}

となりますが、

  • \frac{\Bigint_0^{\infty}tg_1(t)dt}{t_e}

はGI/M/1の稼働率u_1そのものですから

  • u_s=u_1

となり、両者の稼働率は等しいことになります。よって式(30)が成り立つということは「分布の種類も同じで、稼働率も等しい」ということになります。式(30)が成り立っていると式(28)からbの値も同じになります。GI/M/sのbb_s、GI/M/1のbb_1と表して、このことを確かめておきます。まず

  • b_1=\Bigint_0^{\infty}\exp\left(-\frac{(1-b_1)t}{t_e}\right)g_1(t)dt・・・・(31)

次に

  • b_s=\Bigint_0^{\infty}\exp\left(-\frac{(1-b_s)st}{t_e}\right)g_s(t)dt=\Bigint_0^{\infty}\exp\left(-\frac{(1-b_s)st}{t_e}\right)sg_1(st)dt
    • =\Bigint_0^{\infty}\exp\left(-\frac{(1-b_s)st}{t_e}\right)g_1(st)d(st)=\Bigint_0^{\infty}\exp\left(-\frac{(1-b_s)t}{t_e}\right)g_1(t)dt

よって

  • b_s=\Bigint_0^{\infty}\exp\left(-\frac{(1-b_s)t}{t_e}\right)g_1(t)dt・・・・(32)

式(31)と(32)は同じ形の式ですので

  • b_s=b_1

となります。ここから分布の種類と稼働率が同じであれば、bの値は同じである、ということが言えます。