GI/G/s待ち行列の平均待ち時間の近似式(6)

GI/G/s待ち行列の平均待ち時間の近似式(5)」の最後ではE_2/M/s待ち行列の平均待ち時間を算出する近似式

  • CT_q(E_2/M/s){\approx}\Omega(E_2/M/s)\frac{u+2}{4s(1-u)}t_e・・・・(43)

を導き出しました。これを用いれば、\Omega(E_2/M/s)を求めることが出来れば近似的にCT_q(E_2/M/s)を求めることが出来ます。
しかし\Omega(E_2/M/s)を一般的に求めることは難しいです。まず、s=2の場合、すなわち\Omega(E_2/M/2)を求めることを考えます。E_2/M/s待ち行列にジョブがk個ある確率(時間平均での確率)をp(k)で表すことにします。そうすると、\Omega(E_2/M/2)の定義から

  • \Omega(E_2/M/2)=1-[p(0)+p(1)]・・・・(44)

が成り立ちます。一方、「GI/G/s待ち行列の平均待ち時間の近似式(3)」では到着過程のフェーズ(フェーズ0またはフェーズ1で表す)と待ち行列内のジョブ数の組合せに対する確率p(m,k)(ただし、m=0または1)を定義しておりました。p(m,k)の定義から

  • p(0)=p(0,0)+p(1,0)・・・・(45)
  • p(1)=p(0,1)+p(1,1)・・・・(46)

を言うことが出来るので、式(44), (45), (46)から

  • \Omega(E_2/M/2)=1-[p(0,0)+p(1,0)+p(0,1)+p(1,1)]・・・・(47)

なので、p(0,0), p(1,0), p(0,1), p(1,1)を求めればよいことになります。これらの状態確率を求めることは「GI/G/s待ち行列の平均待ち時間の近似式(3)」で試みました。すなわち、状態遷移図を描いて、平衡方程式を立てて解こうとしました。しかし、現れた平衡方程式は無限個の連立一次方程式で、しかも簡単には解けそうにない形をしていました。そこで、待ち行列内のジョブ数があまり多い状態の定常状態確率はほとんどゼロであると仮定して(すなわち、それほどジョブが溜まることはまれであると仮定して)無視することによってこの連立方程式の個数を有限することで近似的に解くことが考えられます。ここでは、ジョブ数が10個までの確率、すなわちp(0,10)p(1,10)までを考慮し、ジョブが11個以上存在する確率はゼロとみなして近似的に定常状態確率を求めることを考えます。すると、平衡方程式は以下のようになります。

  • 4up(0,0)=p(0,1)・・・・(16)
  • 4up(1,0)=4up(0,0)+p(1,1)・・・・(17)
  • (4u+1)p(0,1)=4up(1,0)+2p(0,2)・・・・(18)
  • (4u+1)p(1,1)=4up(0,1)+2p(1,2)・・・・(19)
  • (4u+2)p(0,2)=4up(1,1)+2p(0,3)・・・・(20)
  • (4u+2)p(1,2)=4up(0,2)+2p(1,3)・・・・(21)

ここまでは「GI/G/s待ち行列の平均待ち時間の近似式(3)」ですでに示しました。平衡方程式はさらに以下のように続きます。

  • (4u+2)p(0,3)=4up(1,2)+2p(0,4)・・・・(48)
  • (4u+2)p(1,3)=4up(0,3)+2p(1,4)・・・・(49)
  • (4u+2)p(0,4)=4up(1,3)+2p(0,5)・・・・(50)
  • (4u+2)p(1,4)=4up(0,4)+2p(1,5)・・・・(51)
  • (4u+2)p(0,5)=4up(1,4)+2p(0,6)・・・・(52)
  • (4u+2)p(1,5)=4up(0,5)+2p(1,6)・・・・(53)
  • (4u+2)p(0,6)=4up(1,5)+2p(0,7)・・・・(54)
  • (4u+2)p(1,6)=4up(0,6)+2p(1,7)・・・・(55)
  • (4u+2)p(0,7)=4up(1,6)+2p(0,8)・・・・(56)
  • (4u+2)p(1,7)=4up(0,7)+2p(1,8)・・・・(57)
  • (4u+2)p(0,8)=4up(1,7)+2p(0,9)・・・・(58)
  • (4u+2)p(1,8)=4up(0,8)+2p(1,9)・・・・(59)
  • (4u+2)p(0,9)=4up(1,8)+2p(0,10)・・・・(60)
  • (4u+2)p(1,9)=4up(0,9)+2p(1,10)・・・・(61)
  • (4u+2)p(0,10)=4up(1,9)・・・・(62)
  • 2p(1,10)=4up(0,10)・・・・(63)

下の図は、状態(0,10)(1,10)付近の状態遷移を示したものです。

  • 図3

ここから式(62)(63)の成り立つ理由が分かると思います。さて、実をいうと式(63)は他の式から導くことが出来ます。それは各状態で出入りする遷移の流量が保存していることから分かります。そのため式(63)を除くことにします。では、残りの式(16)〜(21)、(48)〜(62)で定常状態確率を求めることが出来るかと言いますと、まだ不十分です。それは式の数が21個であるのに対して未知数の数は22個だからです。さらに、もうひとつ規格化の式(=全確率の式)を含めることが必要です。すなわち

  • p(0,0)+p(1,0)+p(0,1)+p(1,1)+....+p(0,9)+(1,9)+p(0,10)+p(1,10)=1・・・・(64)

です。まとめると、以下の連立一次方程式を解くことになります。

  • 4up(0,0)=p(0,1)・・・・(16)
  • 4up(1,0)=4up(0,0)+p(1,1)・・・・(17)
  • (4u+1)p(0,1)=4up(1,0)+2p(0,2)・・・・(18)
  • (4u+1)p(1,1)=4up(0,1)+2p(1,2)・・・・(19)
  • (4u+2)p(0,2)=4up(1,1)+2p(0,3)・・・・(20)
  • (4u+2)p(1,2)=4up(0,2)+2p(1,3)・・・・(21)
  • (4u+2)p(0,3)=4up(1,2)+2p(0,4)・・・・(48)
  • (4u+2)p(1,3)=4up(0,3)+2p(1,4)・・・・(49)
  • (4u+2)p(0,4)=4up(1,3)+2p(0,5)・・・・(50)
  • (4u+2)p(1,4)=4up(0,4)+2p(1,5)・・・・(51)
  • (4u+2)p(0,5)=4up(1,4)+2p(0,6)・・・・(52)
  • (4u+2)p(1,5)=4up(0,5)+2p(1,6)・・・・(53)
  • (4u+2)p(0,6)=4up(1,5)+2p(0,7)・・・・(54)
  • (4u+2)p(1,6)=4up(0,6)+2p(1,7)・・・・(55)
  • (4u+2)p(0,7)=4up(1,6)+2p(0,8)・・・・(56)
  • (4u+2)p(1,7)=4up(0,7)+2p(1,8)・・・・(57)
  • (4u+2)p(0,8)=4up(1,7)+2p(0,9)・・・・(58)
  • (4u+2)p(1,8)=4up(0,8)+2p(1,9)・・・・(59)
  • (4u+2)p(0,9)=4up(1,8)+2p(0,10)・・・・(60)
  • (4u+2)p(1,9)=4up(0,9)+2p(1,10)・・・・(61)
  • (4u+2)p(0,10)=4up(1,9)・・・・(62)
  • p(0,0)+p(1,0)+p(0,1)+p(1,1)+....+p(0,9)+(1,9)+p(0,10)+p(1,10)=1・・・・(64)