今ならChaothonさんの質問に答えられると思う。(1)

昨日の余韻をひきずったエントリーです。昨日、ブログを始めたばかりの2007年2月1日の「Kingmanの近似式とその拡張」に寄せられたChaothonさんという方のコメント(2007/2/2書き込み)を読み直していて、今ならChaothonさんの質問に答えられると感じました。もう4年前の質問なので、遅すぎる回答ですが、答えられるかどうか試してみましょう。まずは、コメントの再掲です。


ChaothonChaothon
2007/02/02 19:07
こんにちは、Chaothonです。
Fabをモデル化する場合、GI/G/mが必要なのでしょうか?
ある装置群に到着するロットは、色々な処理ステップが終了して到着するので、ポアソン到着に近似していると仮定し、サービス時間(処理時間)はステップ及びレシピ等によりそんなに大きくは変わらないので一定サービス(M/D)、もしくは、ポラツェック=ヒンチンの公式を適用するために、一般サービス(M/G)を適用しようと思ってました。

また、状態確率分布(待ちがn個の確率)が知りたいので、更に乱暴にM/M/sを適用できたらと思っています(M/M以外に状態確率を求める式を知らないので)。
乱暴すぎると思われますか?

id:CUSCUS 2007/02/02 22:35
Chaothonさんへ。こんにちは。私のウェブを見てくださってありがとうございます。
今回のChaothonさんの質問は私にとって難しいものです。あまりご参考にならないかもしれませんが私の分かっていることをお伝えします。このウェブを見て下さっているどなたかが、もっとよい提言をして下さるといいのですが・・・

まず
 >ある装置群に到着するロットは、色々な処理ステップが終了して到着するので、ポアソン到着に近似していると仮定し

という件ですが、これについてFactory Physicsでは、

「MV(=変動係数が1に近い変動の)到着が実際に発生する別のやり方はワークステーション(=装置群)が多くのソースから供給される場合である。例えば、熱処理工程は多くの異なるラインからジョブを受け取るかもしれない。
このような場合、最新の到着からの時間は次の到着がいつ起こりそうかについての情報を(それはいろいろな場所から来るので)それほど提供しない。よって到着間隔は「記憶なし(つまり、指数分布)になる傾向にあり、従ってCa(=ロット到着間隔の変動係数) は1に近くなる。与えられた任意のソースからの到着が全く規則的(つまりLV(=変動係数が0に近い変動))であってさえも、すべての到着の「重ね合わせ」はMVに見える傾向がある。」

とだけ書かれていて、2つ以上の処理ステップからの重ね合わせの到着分布がどんな場合にどの程度ポアソン到着に近くなるのかの記述がありません。
そこを私は知りたいと思っております。
ただ、大まかな傾向としては到着分布はポアソンに近くなると思います。

 >また、状態確率分布(待ちがn個の確率)が知りたいので、更に乱暴にM/M/sを適用できたらと思っています(M/M以外に状態確率を求める式を知らないので)。
 >乱暴すぎると思われますか?
とのことですが、乱暴なのかどうか答を持ち合わせていません。私も装置台数が複数の時にはM/M/以外に状態確率を求める式を知りませんので、私もChaothonさんと同じように考えると思います。
お役に立てる答がなくてすみません。


まず、最初から見ていきましょう。

Fabをモデル化する場合、GI/G/mが必要なのでしょうか?

「Fab」というのは半導体前工程の工場のことを指す半導体業界の用語です。

ある装置群に到着するロットは、色々な処理ステップが終了して到着するので、ポアソン到着に近似していると仮定し、・・・・・

Chaotonさんのこの考えは正しいです。ただ、Fabの装置群の中にも、前工程装置群が1,2種類しか存在しない装置群があるかもしれません。あるいは、その装置群にやってくるロットの多くがバッチ装置からのものである場合もあるかもしれません。そこのところはファブを流れる実際の製品のプロセスフロー(=ラウティング)を調べてみないと断言出来ません。大筋としてはファブ内の装置群へのロットの到着の様子はポアソン分布で近似して大丈夫だと思います。ただ、当時の私としては半導体ファブだけでなく、他の業界の工場のことも視野に入れてGI/G/s待ち行列にこだわりました。

サービス時間(処理時間)はステップ及びレシピ等によりそんなに大きくは変わらないので一定サービス(M/D)、もしくは、ポラツェック=ヒンチンの公式を適用するために、一般サービス(M/G)を適用しようと思ってました。

装置群内の装置の台数が1台だけであれば、M/D/1やM/G/1についての平均待ち時間の公式が存在しますが(「ポラツェク=ヒンチンの公式」というのはM/G/1の平均待ち時間を表す公式です)、半導体ファブ内の装置群は通常、複数台の装置からなるので、M/D/1やM/G/1の公式は適用出来ません。たぶん、そのことはChaothonさんもご存知で、そのために次のような書き込みに続いているのだと思います。

また、状態確率分布(待ちがn個の確率)が知りたいので、更に乱暴にM/M/sを適用できたらと思っています(M/M以外に状態確率を求める式を知らないので)。

要するに状態確率分布を求めたいが、それを求めることが出来るのはM/M/sの場合のみである。最初はポラツェク=ヒンチンの公式を適用しようと思ったが、それでは状態確率分布も求めることは出来ないし、(コメントには書かれていませんがおそらく、次のようにも考えられたのでしょう)複数台数の装置群にも適用出来ないので、M/M/sを適用したらどうだろう、ということです。

乱暴すぎると思われますか?

おそらく今の私ならば、M/M/sの状態確率分布を適用するよりも精度のよい公式をお知らせすることが出来ると思います。


長くなりましたので、今日はここまで。