バッファ・マネジメントについて(1)

台湾国立交通大学の張永佳博士(Dr. Jasmine Chang)の論文「Analysis of Demand Patterns on Demand-Pull replenishment Application(需要プル補充適用における需要パターンの解析)」を読んであれこれ考えているうちにゴールドラットの「ザ・クリスタルボール」

を読み直し始めました。というのは、上記論文で扱っているDemand-Pull replenishment Application(需要に基づいて製品製造をプルする方法)が、この本で説明されていた方法だからです。


読み直してみて今まで読み落としていたことに気がつきました。ゴールドラットTOC(Theory Of Constraint:制約理論)というと、すぐにDBR(ドラム・バッファ・ロープ)という、ボトルネック工程の作業速度に合わせて工場への材料の投入を行う、工場管理の手法を思い浮かべるのですが、この本で問題になっているのは、製品倉庫の在庫管理(=バッファ・マネジメント)です。これが、上記論文で扱っているDemand-Pull replenishment Application(需要に基づいて製品製造をプルする方法)です。(DBRについてはゴールドラットの有名な本「ザ・ゴール」

に生々しく描かれています)
そして、これは基本的にはDBRと似たような手法と思っていたのですが、この両者は基本的には両立しない手法だったことに気がつきました。DBRの場合、ボトルネックは工場内にありました。つまり、この時に仮定されている状況は、製品が完成すれば問題なく売れる、という状況でした。ところが「クリスタルボール」で描かれているのはボトルネックは市場にある状況です。「クリスタルボール」で扱っているのは多品種を製造し販売する業種で、製品の種類によっては品切れが発生するのに一方では売れなくて大量の在庫を抱える製品が多数あるような状況です。ここでは、工場内のいわゆるボトルネック工程(つまり、製品を必要量製造するのに必要な装置稼動時間の割合が一番高い装置群)は、製造から販売までの広い範囲で見た場合、ボトルネックになっていないのです。ボトルネックになっていないのならば、工場内のいわゆるボトルネック工程の作業速度に合わせて材料を工場に投入する必要はありません。だからDBRは必要でないのです。DBRが必要になるのは、「ザ・クリスタルボール」で描かれたバッファ・マネジメントが功を奏して、売上げが伸び、それが工場をボトルネックにするようになってからなのでしょう。その際には「ザ・クリスタルボール」で描かれたバッファ・マネジメントと「ザ・ゴール」で描かれたDBRの併用が必要になるのでしょう。しかし、それをどうやって実装するかというのは贅沢な悩みでしょう。通常の会社の場合、DBRの適用か、バッファ・マネジメントの適用か、のどちらかが必要とされており、その両方ではないのだと私は結論しました。さらに現代では大部分の製造業において、工場ではなく市場がボトルネックになっているのではないでしょうか。そうだとすれば、バッファ・マネジメントはDBRよりも重要なのでしょう。これからしばらくバッファ・マネジメントについてあれこれ考えてみようと思います。