バッファ・マネジメントについて(4)

バッファ・マネジメントについて(3)」の続きです。
バッファ・マネジメントについて(2)」で、需要により工場に材料をプルする(引き寄せる)メカニズムを調べるのに、どうやら1品種だけ取り出して考察してもよいことが分かりました。そこでもう一度「バッファ・マネジメントについて(2)」での1製品の流れの図を出してみましょう。

この図を待ち行列ネットワークの枠組みで考え直してみると、工場と市場の2つのリソースがある下の図のような待ち行列ネットワークと考えることが出来ます。

ただし、工場のほうは通常のリソースとは異なり、単に工場の中をジョブ(材料/半製品/製品)がある時間、滞在するものになります。この工場の中に同時に存在するジョブ数に上限はありません。これは「4.2.2. センターの記述:Quantitative System Performance」で登場したディレイのリソースと考えることが出来ます。次に市場は、今まで考えてきたようなリソースですが、処理時間に当たるものは、この製品の売れる間隔にあたります。この製品がある期間にはよく売れ、別の時にはあまり売れない、あるいはまったく売れない、という状況は、この市場リソースの処理時間が変動すると考えることで模擬します。製品在庫は、この市場リソースの前の待ち行列と考えます。この市場リソースの処理開始時刻がこの製品が1個売れた時刻に対応するとします。もし、市場リソースが処理中でなく空きがあるならば、売り切れ状態になっている、ということになります。ジョブの数は、工場と製品在庫と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここまで書いて、自分の書いていることに矛盾があることに気づきました。市場リソースの処理開始時刻を販売された時刻と考えると、そのジョブは市場リソースで処理中になるのであって、それが即、次のジョブの工場投入にはなりません。そのジョブが市場リソースで処理完了して初めて次のジョブの工場投入になります。これは、製品在庫からジョブが出た瞬間に次のジョブを工場に投入する、という需要プルの考え方と微妙に違います。
では、市場リソースで処理中のジョブも製品在庫のジョブとみなす方法はどうでしょうか? このようにみなすと、市場リソースでのジョブの処理終了が、製品在庫からジョブが出て行くという事象に対応することになります。そして、その瞬間に次のジョブの工場投入が行われることになるので、需要プルの考え方に一致します。


しかし、私はこの考え方にも欠点があると、思いました。例えば、長い期間手持ち在庫がない状態が続いたとします。このことは今のモデルで言えば、市場リソースが空き状態になっていることに対応します。そして、その後やっと工場からジョブが製品在庫にやってきたとします。すると、今のモデルではその時点(つまりジョブが市場リソースに到着した時点)から処理が始まり、その後、需要(処理終了)が発生することになります。しかし実際には手持ち在庫がない長い期間のうちに需要が複数溜まっているのが普通ではないでしょうか? そしてそのような場合には、ジョブが製品在庫に入った途端、市場に出ていくのではないでしょうか?


こうやって考えていくと、私は手持ち在庫がない時に、需要が溜まるという現象を考慮していなかったことに気づきます。ジョブが市場リソースの前に溜まる(これが手持ち在庫になるのですが)ことを考慮するだけでなく、需要が溜まることも考慮しなければならなかったのです。問題の焦点は、手持ち在庫がない時に需要があった場合(つまり、顧客がその製品を買いたいと言ってきた場合)私たちは何をするか、ということになりそうです。顧客が買いたいと言っても手持ち在庫がないので売ることが出来ませんが、それでも、需要あり、としてこの時点で工場にジョブを投入するのが自然ではないでしょうか? そうしないと手持ち在庫が足りない状況が緩和されません。ところが先に検討した待ち行列ネットワークのモデルでは手持ち在庫がない場合には需要を受付けない構造になっていました。
・・・・ひょっとすると、この待ち行列ネットワークモデルが正しい場合があるかもしれません。それは日用品のようなありふれた製品を売る場合です。その場合、お客はある店で自分の欲しい物がなければ、その物が入荷されるまで待っている(つまり、需要を保持しておく)のではなくて、別の店に行ってしまうかもしれません。そして別の店で自分の欲しい物があれば、それでその人の需要が満たされてしまいます。つまり工場は需要を受付けないわけです。・・・・それでも、つまり、お客を逃がしてしまったとしても、だからといってその製品の生産を促さないというのは正しいのでしょうか? 私は、その客は逃したにしても別のお客が同じものを欲しがるかもしれないと思います。やはり、売り切れ状態であってもジョブを工場に投入するのが正しいと思います。以上を考慮して、最初の図を以下のように修正してみました。

工場へのジョブの投入は外部からの需要によって行われます。次に、需要があって製品在庫がない場合には需要が溜まります。逆に製品在庫があって需要がない場合には製品が溜まります。需要と製品在庫の両方がある時に販売が行われます。これは今まで私が扱ってきた待ち行列モデルよりも複雑なモデルになるのでしょうか?