バッファ・マネジメントについて(7)

バッファ・マネジメントについて(6)」では、需要の変動が大きくなると必要総在庫数が増加する、ということが分かりました。今度は考察の方向を変えてみます。「バッファ・マネジメントについて(5)」の需要が規則的な場合

と「バッファ・マネジメントについて(6)」の需要が不規則な場合

は、どちらも需要が平均2日に1個でした。ここで工場について[リトルの法則]を適用してみましょう。すると、工場のスループットは0.5個/日、サイクルタイムは3日なので、工場内のWIPは

  • 0.5個/日 × 3日 = 1.5個

になります。つまり、工場には平均1.5個の製品(まだ未完成なので半製品と呼ぶのが正確でしょう)があることになります。上の図の場合では必要総在庫数は2個でした。一方、下の図の場合は必要総在庫数は3個でした。必要総在庫数はその定義から考えて、工場内のWIP+手持ち在庫数でした。工場内のWIPは平均1.5個なので、上の図の場合(需要が規則的な場合)は製品在庫に平均0.5個、下の図の場合(需要が不規則な場合)は製品在庫に平均1.5個の製品があることになります。そういう目で見てみると上の図では、4日目以降は手持ち在庫が1個、0個、1個、0個、と変化していくので、なるほど平均0.5個、というのは正しそうです。では、下の図の場合はどうでしょうか? この場合4日目以降(なぜ4日目以降と言うかといえば、初めて製品が製品在庫に到着するのが4日目だからです)の手持ち在庫を見ていくと、3個、2個、1個、1個、2個、2個、0個、0個、(12日目以降は、実は赤の線がグラフからはみ出しているのですが、そこも考慮すると)1個、3個、3個となって平均1.64個なので、まあまあ1.5個に近い値になります。


ここから、

  • 必要総在庫数=(工場の平均WIP)+(需要の変動に対応するための手持ち在庫数

と考えることが出来ます。そして「需要の変動に対応するための手持ち在庫数」は、需要が変動するほど必要になる、ということになります。


さて、工場の平均WIPは、(サイクルタイム)×(スループット)でしたので、工場のサイクルタイムが長ければ長いほど多くなります。上の式から、それにつれて必要総在庫数も増えることになります。よって

  • 工場のサイクルタイムが増加するにつれて必要総在庫数も増加する。

ということが出来ます。


ところで、上の考察では工場のサイクルタイムの増加による工場のWIPの増加だけを問題にしましたが、工場のサイクルタイムが増加することによって「需要の変動に対応するための手持ち在庫数」も変化しないでしょうか? 次のように考えてみましょう。
ある時、突然、需要が集中したとします。するとこの需要に見合うだけの製品が製品在庫に到着するのは工場のサイクルタイムの時間だけ経ったのちです。もし工場のサイクルタイムが短ければ、その短い間に製品在庫の目減りが補充され回復します。逆にもし工場のサイクルタイムが長ければ、製品在庫の目減りはなかなか回復しません。その目減りしている間に次の突発的な需要集中がくるかもしれません。そうするとこのような工場については、品切れが発生しないように用心して、最初から製品在庫の在庫量を大目に確保しておくことになります。つまり、工場のサイクルタイムが長いと、需要の変化への追従が遅くなるので「需要の変動に対応するための手持ち在庫数」も増えるというわけです。この意味からも

  • 工場のサイクルタイムが増加するにつれて必要総在庫数も増加する。

と言えるわけです。そうすると工場のサイクルタイムは短いほうが望ましいということになります。