M/M/s待ち行列のサイクルタイムの変動係数(1)

M/M/s待ち行列のサイクルタイム分布」の式(6)(ここでは番号を振り直して式(1)とします)

  • f_{CT}(t)=\frac{\Pi(1-u)s}{t_e[(1-u)s-1]}\left[\exp\left(-\frac{t}{t_e}\right)-\exp\left(-\frac{(1-u)s}{t_e}t\right)\right]+(1-\Pi)\frac{1}{t_e}\exp\left(-\frac{t}{t_e}\right)・・・・(1)

でM/M/s待ち行列のサイクルタイム分布を明らかにしました。ここからM/M/s待ち行列のサイクルタイムの変動係数を求めようと思いました。「M/M/1待ち行列のサイクルタイムの変動係数」で明らかにしたようにM/M/1待ち行列ではサイクルタイムの変動係数は1でした。それでM/M/sの場合がどうなるのか興味を持ち始めたのです。しかし式(1)は複雑で、計算が大変そうです。そこで別の方向から攻めることにしました。


M/M/s待ち行列のサイクルタイム分布」と同じように、まず、装置が全てふさがっているという前提で計算し、次に、空いている装置がある場合で計算し、最後に両者を合わせる、という方針で行きます。まず、装置が全てふさがっている場合です。この場合、待ち時間の分布関数は「M/M/s待ち行列のサイクルタイム分布」の式(2)

  • f_{qf}(t)=\frac{(1-u)s}{t_e}\exp\left(-\frac{(1-u)st}{t_e}\right)・・・・(2)

で与えられました。この式はこの分布が指数分布であることを示しています。指数分布の性質を用いれば、待ち時間の平均値は

  • \frac{t_e}{s(1-u)}

であり、待ち時間の標準偏差

  • \frac{t_e}{s(1-u)}

であることが分かります。装置が全てふさがっているという前提での待ち時間を確率変数CT_{qf}で表すことにします。すると上記のことは

  • E(CT_{qf})=\frac{t_e}{s(1-u)}・・・・(3)
  • V(CT_{qf})=\frac{t_e^2}{s^2(1-u)^2}・・・・(4)

と表すことが出来ます。ただしV(CT_{qf})CT_{qf}の変動を表します。一方、処理時間の確率変数をTで表すことにします。処理時間は平均t_eの指数分布で変動しますから

  • E(T)=t_e・・・・(5)
  • V(T)=t_e^2・・・・(6)

です。装置が全てふさがっているという前提でのサイクルタイムを確率変数CT_fで表すことにします。すると

  • CT_f=CT_{qf}+T・・・・(7)

です。確率変数の和の平均は、それぞれの確率変数の平均の和でした。そして確率変数の和の変動は、それぞれの確率変数の変動の和でした(「独立な確率変数の和の分散」参照)。よって式(3)(4)(5)(6)(7)から

  • E(CT_f)=\frac{t_e}{s(1-u)}+t_e・・・・(8)
  • V(CT_f)=\frac{t_e^2}{s^2(1-u)^2}+t_e^2・・・・(9)

となります。一方、空いている装置が少なくとも1台存在することを前提にすると、そのサイクルタイムは処理時間に等しくなります。空いている装置が存在するという前提でのサイクルタイムを確率変数CT_eで表すことにすると、

  • E(CT_e)=t_e・・・・(10)
  • V(CT_e)=t_e^2・・・・(11)

です。装置が全てふさがっている確率は\Piで、空いている装置が少なくとも1台存在する確率は1-\Piです。よって、前提を外した時のサイクルタイムを確率変数CTで表すと、

  • E(CT)={\Pi}E(CT_f)+(1-\Pi)E(CT_e)・・・・(12)

となります。式(12)に式(8)(10)を代入して計算すると

  • E(CT)=\frac{\Pi}{s(1-u)}t_e+\Pi{t_e}+(1-\Pi)t_e

よって

  • E(CT)=\frac{\Pi}{s(1-u)}t_e+t_e・・・・(13)

となります。