「待ち行列システムGI/G/1における待ちについての近似公式」の内容検討(9)

Pageの近似式の再検討(4)」の最後で

そのPageの近似式がc_a>1の時には精度が悪いとなると私はどうすればよいでしょうか?

と私は書きましたが、その答は、Wolfgang KraemerとManfred Lagenbach-Belzの近似式を基礎とする、ということでしかないでしょう。平均待ち時間CT_qについてのKraemer・Lagenbach-Belzの近似式は

  • c_a{\le}1の時
    • CT_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e\exp\left[-\frac{2(1-u)}{3u}\cdot\frac{(1-c_a^2)^2}{c_a^2+c_e^2}\right]・・・・(57)
  • c_a>1の時
    • CT_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e\exp\left[-(1-u)\cdot\frac{c_a^2-1}{c_a^2+4c_e^2}\right]・・・・(58)

ですが(「ち行列システムGI/G/1における待ちについての近似公式(2)」の式(1.3)参照)、これは調べてみるとかなりよい精度を持っています。ですのでこれをPageの近似式の代わりに基礎として使用することが考えられます。ただし注意しておかなければならないのは、Pageの近似式がGI/G/sについての近似式であったのに対し、上記のKraemer・Lagenbach-Belzの近似式はGI/G/1についての近似式であり、これをs>1の場合(装置が2台以上の場合)に適用するには工夫が必要だということです。


では、Kraemer・Lagenbach-Belzの近似式(57)(58)の精度を確認しておきます。まずc_a=1の場合、この近似式は

  • CT_q=\frac{1+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e・・・・(59)

となってポラツェク・ヒンチンの式と一致しますので、この近似式は正確な式になります。次にc_a<1の場合とc_a>1の場合を調べてみます。調べるに際してCT_qを直接調べるのではなくて

  • \frac{CT_q(GI/G/1)}{CT_q(M//1)}

の値を調べることにします。それはKingmanの近似式

  • CT_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e・・・・(60)

にしろ、私の近似式

  • CT_q=\frac{c_a^2+c_e^2[c_a^2(1-u)+u]}{2}\frac{u}{1-u}t_e・・・・(61)

にしろ、Kraemer・Lagenbach-Belzの近似式(57)(58)にしろ、全て

  • CT_q(GI/G/1)=B\frac{u}{1-u}t_e・・・・(62)

の形をしており、

  • CT_q(M/M/1)=\frac{u}{1-u}t_e・・・・(63)

であることに注意すれば式(62)は

  • CT_q(GI/G/1)=B\cdot{CT_q}(M/M/1)・・・・(64)

と書けます。そして

  • B=\frac{CT_q(GI/G/1)}{CT_q(M/M/1)}・・・・(65)

Kingmanの近似式では

  • B=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}・・・・(66)

であり、私の近似式の場合には

  • B=\frac{c_a^2+c_e^2[c_a^2(1-u)+u]}{2}・・・・(67)

であり、Kraemer・Lagenbach-Belzの近似式では

  • c_a{\le}1の時
    • B=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\exp\left[-\frac{2(1-u)}{3u}\cdot\frac{(1-c_a^2)^2}{c_a^2+c_e^2}\right]・・・・(68)
  • c_a>1の時
    • B=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\exp\left[-(1-u)\cdot\frac{c_a^2-1}{c_a^2+4c_e^2}\right]・・・・(69)

であるというわけです。そこですでに正確なCT_qの値が分かっているD/M/1、E2/M/1、c_a^2=2であるようなH2/M/1、c_a^2=3であるようなH2/M/1について、Bの正確な値と上記(66)(67)(68)(69)で計算した結果を比較することでこれらの近似式の精度を比較したいと思います。