GI/G/s待ち行列の待ち時間の分布の近似式の再考(1)

「待ち行列システムGI/G/1における待ちについての近似公式」の内容検討(11)」の続きです。
さて、話を「GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(1)」に戻します。というと、あまりに昔のことなので、私のこのブログを丹念に読んでくださっている方でも「えっ!」と驚くかもしれませんが、最近の話題はここからの大きな脱線だったのでした。本来は、GI/G/s待ち行列の待ち時間の累積確率分布を求めるのが目的でした。
さて、GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(1)」ではGI/G/s待ち行列の待ち時間の累積確率分布F_q(t)を式(3)(ここでは番号を振り直して式(1)とします)

  • F_q(t){\approx}1-\frac{b\Pi}{u}\exp\left(-\frac{2(1-b)st}{(1+c_e^2)t_e}\right)・・・・(1)

のように推定したのでした。bの値にKraemer・Lagenbach-Belz近似式

  • b=u+(c_a^2-1)u(1-u)h(u,c_a^2,c_e^2)・・・・(2)
  • c_a{\le}1の時
    • h(u,c_a^2,c_e^2)=\frac{1+c_a^2+uc_e^2}{1+u(c_e^2-1)+u^2(4c_a^2+c_e^2)}・・・・(3)
  • c_a>1の時
    • h(u,c_a^2,c_e^2)=\frac{4u}{c_a^2+u^2(4c_a^2+c_e^2)}・・・・(4)

を採用することによって、この式にどのような影響がおよぼされるかこれらか検討します。


まず、Kraemer・Lagenbach-Belz近似式はGI/G/sのためのものではなくGI/G/1のためのものであることに注意しなければなりません。そこで直接影響が出るのは式(1)でs=1の場合です。よって式(1)にs=1を代入した

  • F_q(t){\approx}1-b\exp\left(-\frac{2}{1+c_e^2}\frac{(1-b)t}{t_e}\right)・・・・(5)

を検討します。この式でbとしてKraemer・Lagenbach-Belz近似式(2)(3)(4)の計算結果を採用するとした場合、「GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(1)」での考察と矛盾が生じます。「GI/G/s待ち行列の待ち時間分布を求めて(1)」では、式(1)から平均待ち時間CT_q

  • CT_q=\frac{b\Pi}{u}\frac{1+c_e^2}{2}\frac{1}{s(1-b)}t_e・・・・(6)

と導出し、それをCT_qに関する私の近似式

  • CT_q\approx\frac{c_a^2+c_e^2[c_a^2(1-u)+u]}{2}\cdot\frac{\Pi}{s(1-u)}t_e・・・・(7)

と等しいと置いて、bを求めたのでした。しかし今回bはKraemer・Lagenbach-Belz近似式から求めるので式(1)の\exp(\cdot)の中は別に

  • -\frac{2}{1+c_e^2}\frac{(1-b)st}{t_e}

であると主張する必要はありません。これはGI/M/sの待ち時間分布とM/G/sの待ち時間分布の形から推測したものであって、若干根拠に弱いところがあります。ですから、むしろ\exp(\cdot)の中を-Atと置いて、ACT_qとの関係から求めたほうがより根拠のある近似になることでしょう。GI/G/1の場合に戻って考察すると式(5)は

  • F_q(t){\approx}1-b\exp(-At)・・・・(8)

と書くべきであるということになります。ここから

  • CT_q=\frac{b}{A}

よって

  • A=\frac{b}{CT_q}

となります。これを式(8)に代入して

  • F_q(t){\approx}1-b\exp\left(-\frac{b}{CT_q}t\right)・・・・(9)

ここで CT_qは、CT_qに関するKraemer・Lagenbach-Belz近似式

  • c_a{\le}1の時
    • CT_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e\exp\left[-\frac{2(1-u)}{3u}\cdot\frac{(1-c_a^2)^2}{c_a^2+c_e^2}\right]・・・・(10)
  • c_a>1の時
    • CT_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e\exp\left[-(1-u)\cdot\frac{c_a^2-1}{c_a^2+4c_e^2}\right]・・・・(11)

より求めることにします。これでGI/G/1待ち行列におけるジョブの待ち時間の累積確率分布F_q(t)の近似式を求めることが出来ました。
まとめて書きますと結論は

GI/G/1待ち行列におけるジョブの待ち時間の累積確率分布F_q(t)の近似式

  • F_q(t){\approx}1-b\exp\left(-\frac{b}{CT_q}t\right)・・・・(9)
    • ただし
      • b=u+(c_a^2-1)u(1-u)h(u,c_a^2,c_e^2)・・・・(2)
    • さらに
    • c_a{\le}1の時
      • h(u,c_a^2,c_e^2)=\frac{1+c_a^2+uc_e^2}{1+u(c_e^2-1)+u^2(4c_a^2+c_e^2)}・・・・(3)
      • CT_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e\exp\left[-\frac{2(1-u)}{3u}\cdot\frac{(1-c_a^2)^2}{c_a^2+c_e^2}\right]・・・・(10)
    • c_a>1の時
      • h(u,c_a^2,c_e^2)=\frac{4u}{c_a^2+u^2(4c_a^2+c_e^2)}・・・・(4)
      • CT_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{u}{1-u}t_e\exp\left[-(1-u)\cdot\frac{c_a^2-1}{c_a^2+4c_e^2}\right]・・・・(11)

です。



次の課題は、上の近似式をGI/G/sの場合に拡張することです。ここで問題になるのはGI/G/1のKraemer・Lagenbach-Belz近似式で求めたbの値をそのままGI/G/sの場合にも用いてよいかどうかです。Kraemer・Lagenbach-Belz近似式の導出を論じた論文(「待ち行列システムGI/G/1における待ちについての近似公式(1)」〜「(8)」参照)ではGI/G/sの場合については考慮していませんでした。GI/G/sにおける待ち確率(=到着したジョブが、全ての装置が処理中であるのを見る確率)\Pi(GI/G/s)についてこれから検討していきます。