GI/G/s待ち行列の平均待ち行列長

一定期間の処理開始回数の平均と標準偏差」の最後の結論は、

同じ期間T_2の間に処理開始が起きる回数の平均と標準偏差は、GI/G/sと、その処理時間分布を1/sにして装置を1台にしたGI/G/1で等しくなる、ということになります。

というものでした。これがどういう意味を持つかといいますと、GI/G/sで全ての装置が処理中である期間の処理開始の発生の様子が、装置を1台にしてその代わり処理時間分布を1/sに縮小したGI/G/1で、装置が処理中である期間の処理開始の発生の様子と少なくとも平均と標準偏差については同じである、ということです。


両者がまったく同じ分布を持つとはいえませんが、平均と標準偏差が同じであれば、似たような振舞をすると期待できます。両者におけるジョブの到着過程は同一であり、全ての装置が処理中の時の処理開始の発生の様子が似ているのですが、全ての装置が処理中の時にはジョブの到着は待ち行列長をプラス1することを意味し、処理開始は待ち行列長をマイナス1することを意味します。よって全ての装置が処理中の時の両者の待ち行列長はほぼ同じになると期待されます。全ての装置が処理中の時待ち行列長を\hat{L}_q(\cdot)で表すと

  • \hat{L}_q(GI/G/s){\approx}\hat{L}_q(GI/G/1)・・・・(1)

時間平均での待ち行列長をL_q(\cdot)で表すと、全ての装置が処理中でない場合は待ち行列長は必ずゼロなので

  • L_q(GI/G/s)=\Omega(GI/G/s)\hat{L}_q(GI/G/s)・・・・(2)
  • L_q(GI/G/1)=u\hat{L}_q(GI/G/1)・・・・(3)

となります。ただし\Omega(GI/G/s)はこの待ち行列で時間平均で装置が全て処理中である確率を表しています。よって式(1)(2)(3)から

  • L_q(GI/G/s)=\Omega(GI/G/s)\hat{L}_q(GI/G/s){\approx}\Omega(GI/G/s)\hat{L}_q(GI/G/1)
    • =\frac{\Omega(GI/G/s)}{u}L_q(GI/G/1)

よって

  • L_q(GI/G/s){\approx}\frac{\Omega(GI/G/s)}{u}L_q(GI/G/1)・・・・(4)

となります。これは
GI/G/s待ち行列の平均待ち時間」で導き出したかったことです。
しかし、「一定期間の処理開始回数の平均と標準偏差」の考察に私はちょっと自信がありません。また、このエントリで少なくとも平均と標準偏差については同じであることを、全ての装置が処理中の時の両者の待ち行列長はほぼ同じになる、ということに結びつけたことにも少し強引さを感じます。今後、この点についても検討していこうと思います。
また、もう一つ問題なのは、式(4)の左辺(GI/G/s)と右辺(GI/G/1)では処理時間の平均値が異なりますが、「GI/G/s待ち行列の平均待ち時間」の式では処理時間が同じとしてそれ以降の式の変形を行っています。実は平均待ち行列L_qは平均処理時間t_eに依存しないのでこれで問題ないのですが、なぜ平均待ち行列L_qは平均処理時間t_eに依存しないのか、その理由を明らかにする必要があります。そのためには準備が必要です。