無題

あわれや、あわれといえ、だが幸いがまさりますよう。


ギリシア悲劇「アガメムノーン」アイスキュロス作、呉茂一訳

アガメムノーン (1975年)

アガメムノーン (1975年)

私事ですが、今の心境は上の言葉のよう。


アガメムノーンと言えば思いだすのが、悪役クリュタイメーストラーの魅力的なセリフ。本には「半ば独白」というト書きがあるが、2400年以上前に本当に「半ば独白」というような近代的な概念があったのだろうか? あったとすれば驚きだ。何という心理主義的な手法だろう。そのセリフは独白から始まり、途中で夫アガメムノーンへの語りかけになり(しかし応答を期待していない)、最後にまた独白に戻る。独白の部分には夫アガメムノーンへの復讐の思いが込められている。

海がある・・・・。その海を誰が干しつくせよう。
その奥にはいっぱい、あの黄金にもひとしく貴い紫貝を養い育てている・・・
ぞくぞくと噴き出す真紅の汁の、あの着る衣を染めなす色*1
*2館にはいくらでも、神助によって、殿さま、そうしたものがございます。
私どもの家は、乏しいということはいっこうに存じませぬゆえ。


このセリフはゼウスへの祈りによって終わる。

ゼウス神、願いを果たさすゼウス御神、何とぞ私の願い*3を遂げさせて下さいませ。その上は遂げようとお定めの何なりとも、神慮のままになされましょう。

*1:アガメムノーン暗殺の際の血のイメージ

*2:ここでアガメムノーンへの語りかけに変わる

*3:夫への復讐を成就するという願い