エヴァをダシにして:サイバネティクス

一昨日のことになるがテレビでやっていた「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」を見て、改めて機械と生命が融合するヴィジョンに心を動かされ、自分の偏愛するサイバネティクスにひきつけて考えていた。私にはシンジ君の苦悩よりも、どうやったら「エヴァ」を作ることが出来るか、ということに興味がいく。
数学者ノーバート・ウィーナーがアメリカで第二次世界大戦中にサイバネティクスを提唱しだしたのは、自分が従事していた軍事研究である自動追尾高射砲の研究で、機械と生物の動作の類似性に気づいたためである。それは今では常識になっているフィードバック機構のことであるが、機械工学や電子工学で明らかになっているフィードバックの特性が、生物の行動や内部のホメオスタシスの機構の解明に役立つというのが彼の発見だった。逆に生物の持つ高度なフィードバックを解明することで、それを工学に応用する道を拓くことが出来るとも考えた。さらに、フィードバックでフィードバックされるものは何か、という問いをたて、今までにはなかった「情報」という概念に到達した。外界の状況をセンサや感覚器が受け、それを表わす情報が機械や生物の中を駆け巡り、処理され、フィードバックされてアクチュエータや筋肉を動かす。ここに生物と機械を情報という観点から統一的に理解する視点が現れる。
さらに、ウィーナーのもとにはウォルター・ピッツがやってきた*1。彼はそれまでにウォーレン・マッカロと一緒にニューロンの数学的モデルを提案しており、それによってニューロンの組み合わせによって数学でいうところの論理計算が出来ることを明らかにした。今でいうニューラルネットワークの発端である。ピッツは工学方面には疎かったらしい。そこでウィーナーは真空管でそのニューロンモデルを実現出来ることを示唆したという。ここから人間の知的活動の少なくとも一部を実行する機械を作る、という展望が拓けた。もっともその頃コンピュータを開発していた人々はウィーナーとは全然別のグループに属し、彼らは(来るべき)機械と生物の類似性などというビジョンとは無関係に、全くの電子工学的興味からコンピュータを建設していたらしい。
しかし、コンピュータもまたウィーナーのビジョンに関連付けが可能だった。そこで問題になっているのは「情報」であるし、コンピュータはそれまでの機械よりも生物的であった。フォン・ノイマンはウィーナーからマッカロとピッツのニューロンモデルの論文を教えられていて興味をもった。ノイマンはある日、世界最初のコンピュータと言われることもあるENIACの建設プロジェクトのアメリカ陸軍側の窓口であったゴールドスタインに出会い、ゴールドスタインからそのプロジェックトの概要を聞かされた。ノイマンはそのプロジェクトとマッカロ=ピッツモデルの関連やアラン・チューリングチューリングマシンとの関連性にすぐ気づいた。そしてすぐにそのプロジェクトにノイマンが乗り込んでくることになる。この時代では、脳とコンピュータの異質性よりも、それらの類似性、つまりどちらもマッカロとピッツのニューロンモデルで説明可能という点、に人々の注目がいった。
かくして人々の前に登場したENIACだが、これは元々、アメリカ陸軍の意向を受けて開発された兵器であった。大砲の弾の命中率を高めるために当時は弾道計算が重要視されていたのであるが、この計算の高速化が課題になっていたのである。ここで、話は唐突にエヴァに戻る。
エヴァンゲリオン汎用ヒト型決戦兵器であって、シ徒と戦うためのものであった。ミサトがシンジにそれを説明した時、兵器でもある世界最初の汎用コンピュータENIACのことが連想された。あれは零号機なのだろうか初号機なのだろうか? 
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4e/Eniac.jpg
NERVのものものしさと当時のENIACのものものしさが私には似ているように思えて、勝手な連想をふくらませていた。

  • ENIACエヴァを関連付けるのは、おもしろい題材だと思ったのですが、うまく書けませんでした。)


参考

*1:ウォルター・ピッツについては「ウォルター・ピッツについて」に書きました。