ブラウン運動――3.ブラウン運動の微分方程式


今度は、t=0の時の点の位置が任意であり、標準偏差a\sqrt{t}であるようなブラウン運動が満たす微分方程式を求めます。この微分方程式はあとで示すようにt=0の時の点の位置が確率密度関数p(y,0)で与えられる場合にも満足します。


もう一度、前回に考えたランダムウォークX(k)に戻ります。X(k)の値がxである確率をf(x,k) で表すことにしていました。式(6)

  • f(x,k+1)=\frac{f(x-1,k)+f(x+1,k)}{2}・・・・(6)

から

  • f(x,k+1)-f(x,k)=\frac{f(x+1,k)+f(x-1,k)}{2}-f(x,k)
  • f(x,k+1)-f(x,k)=\frac{f(x+1,k)-f(x,k)+f(x-1,k)-f(x,k)}{2}

よって

  • f(x,k+1)-f(x,k)=\frac{1}{2}\{f(x+1,k)-f(x,k)}-{f(x,k)-f(x-1,k)\}・・・・(14)

ここで

  • t=\frac{k}{T}・・・・(7)
  • y=\frac{ax}{\sqrt{T}}・・・・(8')

とおきます。そしてT\rightar\inftyにすることでブラウン運動微分方程式を導き出します。


まず(14)に(7)(8')を代入して

  • f\left(\frac{\sqrt{T}y}{a},Tt+1\right)-f\left(\frac{\sqrt{T}y}{a},Tt\right)
  • =\frac{1}{2}\left[\left\{f\left(\frac{\sqrt{T}y}{a}+1,Tt\right)-f\left(\frac{\sqrt{T}y}{a},Tt\right)\right\}-\left\{f\left(\frac{\sqrt{T}y}{a},Tt\right)-f\left(\frac{\sqrt{T}y}{a}-1,Tt\right)\right\}\right]・・・・(15)

ここで

  • p(y,t)=f\left(\frac{\sqrt{T}y}{a},Tt\right)・・・・(16)

とおけば、式(15)は

  • p\left(y,t+\frac{1}{T}\right)-p(y,t)=\frac{1}{2}\left[\left\{p\left(y+\frac{a}{\sqrt{T}},t\right)-p(y,t)\right\}-\left\{p(y,t)-p\left(y-\frac{a}{\sqrt{T}},t\right)\right\}\right]・・・・(17)

ここでさらに、

  • \frac{1}{T}=\Delta{t}・・・・(18)
  • \frac{a}{\sqrt{T}}=\Delta{y}・・・・(19)

とおけば

  • p(y,t+\Delta{t})-p(y,t)=\frac{1}{2}[\{p(y+\Delta{y},t)-p(y-\Delta{y},t)\}]
  • \frac{p(y,t+\Delta{t})-p(y,t)}{\Delta{t}}=\frac{1}{2\Delta{t}}[\{p(y+\Delta{y},t)-p(y,t)\}-\{p(y,t)-p(y-\Delta{y},t)\}]

よって

  • \frac{p(y,t+\Delta{t})-p(y,t)}{\Delta{t}}=\frac{\Delta{y}^2}{2\Delta{t}}\frac{\frac{p(y+\Delta{y},t)-p(y,t)}{\Delta{y}}-\frac{p(y,t)-p(y-\Delta{y},t)}{\Delta{y}}}{\Delta{y}}・・・・(20)

ここでT\rightar\inftyとすると

  • \frac{p(y,t+\Delta{t})-p(y,t)}{\Delta{t}}\rightar\frac{\partial{p}(y,t)}{\partial{t}}
  • \frac{\frac{p(y+\Delta{y},t)-p(y,t)}{\Delta{y}}-\frac{p(y,t)-p(y-\Delta{y},t)}{\Delta{y}}}{\Delta{y}}\rightar\frac{\partial^2p(y,t)}{\partial{y}^2}

さらに、(18)と(19)から

  • \frac{\Delta{y}^2}{2\Delta{t}}=\frac{1}{2}\times\frac{a^2}{T}\times{T}=\frac{a^}{2}

なので式(20)から

  • \frac{\partial{p}(y,t)}{\partial{t}}=\frac{a^2}{2}\frac{\partial^2p(y,t)}{\partial{y}^2}・・・・(21)

となります。
これがブラウン運動 B(t)の確率密度 p(x,t)が満たすべき偏微分方程式になります。


前回「2.ランダムウォークからブラウン運動へ」でお話ししたように、時刻t=0である点y=y_0にある点が時刻tの時にyにいる確率は式(13)

  • p(y,t)=\frac{1}{\sqrt{2a\pi{t}}}\exp\left(-\frac{(y-y_0)^2}{2a^2t}\right)・・・・(13)

で与えられました。これは当然、式(21)を満足するはずです。次にこれを確かめてみます。まず(21)の左辺に式(13)を代入すると

  • \frac{\partial{p}(y,t)}{\partial{t}}=\frac{1}{2}\frac{1}{a\sqrt{2\pi{t}}}\frac{1}{t}\exp\left(-\frac{(y-y_0)^2}{2a^2t}\right)+\frac{1}{a\sqrt{2\pi{t}}}\left(\frac{(y-y_0)^2}{2a^2t^2}\exp\left(-\frac{(y-y_0)^2}{2a^2t}\right)\right)
  • =-\frac{1}{2t}p(y,t)+\frac{(y-y_0)^2}{2a^2t^2}p(y,t)=\frac{(y-y_0)^2-a^2t}{2a^2t^2}p(y,t)

次に(21)の右辺に式(13)を代入した結果を求めるためにまず以下を計算します。

  • \frac{\partial{p}(y,t)}{\partial{y}}=-\frac{y-y_0}{a^2t}\frac{1}{a\sqrt{2\pi{t}}}\exp\left(-\frac{(y-y_0)^2}{2a^2t}\right)=-\frac{y-y_0}{a^2t}p(y,t)

これをさらにy微分して

  • \frac{\partial^2p(y,t)}{\partial{y}^2}=-\frac{1}{a^2t}p(y,t)+\frac{(y-y_0)^2}{a^4t^2}p(y,t)=\frac{(y-y_0)^2-a^2t}{a^4t^2}p(y,t)

よって、式(13))が式(21)を満足することが分かります。


ところで式(21)

  • \frac{\partial{p}(y,t)}{\partial{t}}=\frac{a^2}{2}\frac{\partial^2p(y,t)}{\partial{y}^2}・・・・(21)

は線形ですから、式(21)のある解と別の解の線形結合も式(21)の解となります。つまり、p_1(y,t)p_2(y,t)がともに式(21)を満足するとした場合、c_1c_2を定数として、p_3(y,t)=c_1p_1(y,t)+c_2p_2(y,t)を定義すると、p_3(y,t)も式(21)を満足します。これは

  • \frac{\partial{p}_1(y,t)}{\partial{t}}=\frac{a^2}{2}\frac{\partial^2p_1(y,t)}{\partial{y}^2}・・・・(22)
  • \frac{\partial{p}_2(y,t)}{\partial{t}}=\frac{a^2}{2}\frac{\partial^2p_2(y,t)}{\partial{y}^2}・・・・(23)

が成り立ち、式(22)の両辺にc_1を掛け、式(23)の両辺にc_2を掛け、この2つの式の両辺を足せば、

  • \frac{\partial[c_1p_1(y,t)+c_2p_2(y,t)]}{\partial{t}}=\frac{a^2}{2}\frac{\partial^2[c_1p_1(y,t)+c_2p_2(y,t)]}{\partial{y}^2}

となり、結局

  • \frac{\partial{p}_3(y,t)}{\partial{t}}=\frac{a^2}{2}\frac{\partial^2p_3(y,t)}{\partial{y}^2}・・・・(24)

が成り立つことから分かります。同様に考えて、式(21)を満足する可算無限個の確率密度関数p_k(y,t)、ただしk=1,2,...、と定数c_kがある場合、

  • p(y,t)=\Bigsum_{k=1}^\infty{p}_k(y,t)

で定義されるp(y,t)も式(21)を満足することが分かります。t=0の時の点の位置がz_kであるような確率密度

  • p(y,t,z_k)=\frac{1}{\sqrt{2a\pi{t}}}\exp\left(-\frac{(y-z_k)^2}{2a^2t}\right)・・・・(25)

が式(21)を満足することは先に明らかになっています。すると

  • p(y,t)=\Bigsum_{k=1}^\infty{p}(y,t,z_k)

で定義されるp(y,t)も式(21)を満足することが分かります。さらに拡張して任意の関数g(z)を考え

  • p(y,t)=\Bigint_{-\infty}^{\infty}g(z)p(y,t,z)dz・・・・(26)

で定義されるp(y,t)も式(21)を満足することが分かります。ただしg(z)については

  • \Bigint_{-\infty}^{\infty}g(z)dz=1・・・・(27)

を満足するという制限をつけておきます。さて、このg(z)は何を意味するのでしょう? それを明らかにするためにp(y,0,z)について考えます。t=0で点の位置がzに確定しているということは、y=zの時その確率密度が無限大でy\neq{z}の時確率密度がゼロということになります。さらに確率密度ですから定義域で積分した結果が1にならなければなりません。ということは

  • p(y,0,z)=\delta(y-z)・・・・(28)

ということになります。ただし\delta(y)ディラックデルタ関数です。式(26)から

  • p(y,0)=\Bigint_{-\infty}^{\infty}g(z)p(y,0,z)dz

ここで式(28)を用いると

  • p(y,0)=\Bigint_{-\infty}^{\infty}g(z)\delta (y-z)dz=g(y)

となります。p(y,0)t=0の時の点の確率密度にほかなりませんからg(z)は式(26)で定義した確率密度関数p(y,t)t=0の時の確率密度を表していることになります。g(z)は任意でしたので、よって微分方程式(21)は t=0の時の点の位置が確率密度関数p(y,0)で与えられる場合のブラウン運動確率密度関数p(y,t)の場合にも成り立つことが分かります。