重負荷極限定理(1)

GI/G/s待ち行列で成り立つ重負荷極限定理を導出します。重負荷極限定理は次のような内容です。

  • \lim_{u\rightar{1}}(1-u)L_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}・・・・(1)

ここでuは装置の稼働率L_qは平均待ち行列長、c_aはジョブの到着間隔の変動係数、c_eは処理時間の変動係数、です。ところでGI/G/s待ち行列で成り立つ数式はめったにありません。その意味でこの定理はGI/G/s待ち行列の平均待ち行列長を推定するための大きな手掛かりになる重要な定理です。


では、証明を(厳密な証明ではありませんが)以下に示します。
u\rightar{1}になると一般的な傾向として平均待ちジョブが急速に増えます。そして待ちジョブがまったくない確率はゼロに近づいてきます。今、待ちジョブが1よりかなり多くある状態が続く期間が時刻0からtまであったとします。時刻0からその期間内の任意の時刻rまでに到着したジョブの数をA(r)で表すことにします。また、時刻0からその期間内の任意の時刻rまでに処理が開始されたジョブの数をD(r)で表すことにします。u\rightar{1}になるとtがどんどん長くなります。その場合A(t)D(t)の分布はそれぞれどうなるでしょうか?


ジョブの到着は繰り返し発生する現象です。到着分布はGIであって、これは広く一般の(General)分布を仮定していますが、それだけでなく各間隔の確率が独立である(Indepent)であることも仮定しているという意味です。この到着という現象は、前に起きた時刻からある確率分布に従う時間後に次の発生があり、かつ、その確率分布は変わらないので、「確率変数の和の個数の分布について」で述べたことが適用出来て、A(t)正規分布に近づくことが言えます。そしてA(t)の平均m_Aは、ジョブの到着間隔の平均をt_aとすると「確率変数の和の個数の分布について」の最後に述べたことから

  • m_A=n_a・・・・(2)

となり、「確率変数の和の個数の分布について」の式(9)によりn_a=t/t_aとなるので

  • m_A=\frac{t}{t_a}・・・・(3)

となります。A(t)標準偏差\sigma_Aは、ジョブの到着間隔の標準偏差\sigma_aで表すと「確率変数の和の個数の分布について」の最後に述べたことから

  • \sigma_A=\sqrt{n_a}\frac{\sigma_a}{t_a}

よって

  • \sigma_A=\frac{\sigma_a}{t_a}\sqrt{\frac{t}{t_a}}・・・・(4)

となります。


一方処理開始回数D(t)については次のように考えます。s台ある装置のうちk番目の装置についての処理開始回数をD_k(t)で表すことにします。すると

  • D(t)=\Bigsum_{k=1}^sD_k(t)・・・・(5)

が言えます。さて、D_k(t)についてですが、時刻ゼロからtまで、どの装置も空くことはないので、装置kは常に処理中です。よってジョブの処理開始という現象も、前に処理開始が起きた時刻からある確率分布に従う時間後に次の処理開始があり、かつ、その確率分布は変わらない、ということが言えます。よって、「確率変数の和の個数の分布について」で述べたことが適用出来て、D_k(t)正規分布に近づくことが言えます。D(t)は極限では正規分布に従う確率変数D_k(t)の和ですから、これもまた正規分布に近づくことが分かります。さてD_k(t)の平均m_D(k)は、処理時間の平均をt_eとすると「確率変数の和の個数の分布について」の最後に述べたことから

  • m_D(k)=\frac{t}{t_e}・・・・(6)

となります。D_k(t)標準偏差\sigma_D(k)は、処理時間の標準偏差\sigma_eで表すと「確率変数の和の個数の分布について」の最後に述べたことから

  • \sigma_D(k)=\frac{\sigma_e}{t_e}\sqrt{\frac{t}{t_e}}・・・・(7)

となります。D(t)は式(5)にあるようにs個のD_k(t)の和であるので、D(t)の平均m_Dは、

  • m_D=sm_D(k)

よって

  • m_D=\frac{st}{t_e}・・・・(8)

となります。また、D(t)標準偏差\sigma_Dは、

  • \sigma_D=\sqrt{s}\cdot\sigma_D(k)

よって

  • \sigma_D=\frac{\sigma_e}{t_e}\sqrt{\frac{st}{t_e}}・・・・(9)

となります。u\rightar{1}D(t)は式(8)で与えられる平均と式(9)で与えられる標準偏差を持つ正規分布に近づきます。


さて、時刻ゼロの時の待ちジョブ数、つまり待ち行列長をQ(0)で表し、時刻tの時の待ち行列長をQ(t)で表します。すると

  • Q(t)=Q(0)+A(t)-D(t)・・・・(10)

となります。では、u\rightar{1}になった時のQ(t)の分布はどうなるでしょうか? Q(0)は定数であり、A(t)D(t)はそれぞれ正規分布に従う確率変数でした。さらに、待ちジョブがある限りジョブの到着とジョブの処理開始は独立に発生するので、A(t)D(t)は独立です。よってQ(t)もまたu\rightar{1}正規分布に近づきます。ではu\rightar{1}の時のQ(t)の平均m_Q標準偏差\sigma_Qはどうなるでしょうか? 式(10)(3)(8)から

  • m_Q=Q(0)+m_A-m_D=Q(0)+\left(\frac{1}{t_a}-\frac{s}{t_e}\right)t=Q(0)+\left(\frac{t_e}{st_a}-1\right)\frac{st}{t_a}

ここで

  • u=\frac{t_e}{st_a}

なので

  • m_Q=Q(0)-(1-u)\frac{st}{t_e}・・・・(10)

また式(10)(4)(9)から

  • \sigma_Q^2=\sigma_A^2+\sigma_D^2=\frac{\sigma_a^2}{t_a^2}\cdot\frac{t}{t_a}+\frac{\sigma_e^2}{t_e^2}\cdot\frac{st}{t_e}=c_a^2\frac{t}{t_a}+c_e^2\frac{st}{t_e}=\left(c_a^2\frac{t_e}{st_a}+c_e^2\right)\frac{st}{t_e}

よって

  • \sigma_Q^2=(uc_a^2+c_e^2)\frac{st}{t_e}・・・・(11)

となります。


重負荷極限定理(2)」につづきます。