金鵄(きんし)からの連想
京都からの帰り、近鉄の大和八木駅で乗り換えの電車を待っていると、夜でも照明が当てられていて金色の鳥がつばさを広げている像が浮かび上がっていました。日本書紀の神武天皇のところで登場する金鵄、金色のトビです。その時、すでに飲んでいたのですが、そのせいか、いつもは見慣れたこの映像がなかなかインパクトのあるものに感じました。たぶん太陽を象徴しているであろう金色のトビです。ユング心理学でいう元型のようなものを感じました。
日本書紀には、以下のように記述されています。
神武天皇の軍はナガスネヒコと戦って、苦戦していた。やがて空が曇って氷雨が降ってきた。その時、金色のトビがやってきて、天皇の弓の先にとまった。そのトビは光り輝いて、いなびかりのようであった。このためナガスネヒコの軍勢は戦う力を失ってしまった。
それでほかの民族にも似たものがあるかな、と酔った頭で考えたところ、すぐに思いついたのはマヤの古文書である「チラムバラムの書」に登場する「太陽の顔をした火の金剛インコ」キニチ・カクモのことでした。ところでこの「チラムバラムの書」は難解な書で、読んでいて頭が混乱するたぐいの書物です。
天の主である真実の神の娘、王女であり、奇蹟の処女である*1、やんごとなき娘が天降ったのは、チャクの神々がやってきた地、イサマル・エマル・チャクの町から人影が消えた後であった。町の首長は言った、「<太陽の顔をした火の金剛インコ>キニチ・カクモの盾の天降らんことを」と。だが誰も彼を主とは宣しなかった。主と宣されたのはあの娘、奇蹟の娘、寛大なる心の持主である娘であった。
- 作者: ジャン・マリ・ギュスターヴ・ル・クレジオ,望月芳郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1981/09
- メディア: 単行本
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
キニチ・カクモについては分からないことが多いので、別の例を考えてみたところ、次に思い浮かんだのが、メキシコの国旗にも登場する「サボテンの上に鷲がヘビをくわえてとまっている」図です。これはアステカ族が神から首都をここに建てよ、というお告げにあった光景です。すなわち彼らの主神ウィツィロポチトリは放浪するアステカ族に、「サボテンの上に鷲がヘビをくわえてとまっているのを見たら、その地に首都を建設せよ」とお告げをくだしたのでした。そしてその場所がテノチティトラン、今のメキシコシティなのでした。
家に帰ってから、日本書紀で金鵄の登場する個所を調べてみたところ、そこにおもしろい注釈を見つけました。
これと似た話がハンガリーの建国神話にもある。マジャール人がアルパート王に率いられて南ロシアからカルパチア山脈を越えてハンガリーに進入した時、王軍が疲れはてて一歩も進めなくなった時、turulという鳥(鵄 または鷲)が現われて王軍は再び元気を回復し、この鳥に案内されて、めでたくハンガリーの土地に建国を果し、アルパートはハンガリー王国第一代の王となった。
だからこの話の結論は何だ、と言われると、答えられないのですが、民族を越えていろいろ連想を働かせるのは私にはおもしろいです。