無限容量のバッファの場合はそれほど難しくない(2)

無限容量のバッファの場合はそれほど難しくない(1)」の続きです。


無限容量のバッファの場合はそれほど難しくない(1)」の最後で

  • 図6

という状態遷移図をお見せしました。ここから各状態の確率を計算するのは一見難しそうに見えますが、実はそれほど難しくありません。図6を図7のように考え直してみましょう。図6と図7では矢印の色の意味が異なっています。

  • 図7

図7では同じ色の矢印が等しい遷移確率を持っていると考えます。もしそれが成り立つと仮定すると全ての状態についてその状態に入る矢印の遷移確率の合計と、その状態から出ていく遷移確率の合計が等しくなります。よって、この工場が定常状態であることが分かります。つまり図7で同じ色の矢印が等しい遷移確率を持っているという条件は工場が平衡状態であるための必要条件とは言えませんが充分条件であるとは言えます。
そこで図7で同じ色の矢印が等しい遷移確率を持っていると仮定して、それで各状態の定常状態確率を求めることが出来るかどうか確かめてみます。図7で同じ色の矢印が等しい遷移確率を持っているということは、0以上の任意の整数kについて図8が成り立つ、ということです。

  • 図8

ここで状態(k,m)の定常状態確率をp[k,m]で表わすことにします。図8から以下の式が成り立ちます。まず状態(k+1,m)に入る遷移、から出る遷移の確率が等しいことから

  • p[k,m]\lambda{dt}=p[k+1,m]\mu_1dt・・・・(1)

です。次に状態(k,m)から出る遷移、に入る遷移の確率が等しいことから

  • p[k,m]\lambda{dt}=p[k,m+1]\mu_2dt・・・・(2)

です。式(1)から

  • p[k+1,m]=\frac{\lambda}{\mu_1}p[k,m]・・・・(3)

ここで

  • \frac{\lambda}{\mu_1}=u_1・・・・(4)

という関係を使います。ただしu_1は装置Aの稼働率です。式(3)(4)から

  • p[k+1,m]=u_1p[k,m]・・・・(5)

となります。式(2)についても同様に考えると、

  • p[k,m+1]=u_2p[k,m]・・・・(6)

となります。ただしu_2は装置Bの稼働率で、

  • \frac{\lambda}{\mu_2}=u_2・・・・(7)

です。
さて、式(5)を繰り返し適用することによって

  • p[k,m]=u_1^kp[0,m]・・・・(8)

が成り立つことが分かります。
同様に、式(6)を繰り返し適用することによって

  • p[k,m]=u_2^mp[k,0]・・・・(9)

が成り立ちます。式(8)の右辺に式(9)を適用すれば

  • p[k,m]=u_1^ku_2^mp[0,0]・・・・(10)

となります。
今度はp[0,0]を求めるために、全ての状態の確率を合計します。これは1にならなければなりません。よって

  • \Bigsum_{k=0}^{\infty}\Bigsum_{m=0}^{\infty}p[k,m]=1・・・・(11)

式(11)に(10)を代入して

  • p[0,0]\Bigsum_{k=0}^{\infty}u_1^k\Bigsum_{m=0}u_2^k=1
  • p[0,0]\frac{1}{1-u_1}\cdot\frac{1}{1-u_2}=1
  • p[0,0]=(1-u_1)(1-u_2)・・・・(12)

式(12)を(10)に代入して

  • p[k,m]=u_1^ku_2^m(1-u_1)(1-u_2)・・・・(13)

これで全ての状態の定常状態確率を求めることが出来ました。