有限容量のバッファの場合は解析が難しい

無限容量のバッファの場合はそれほど難しくない(3)」の続きです。

  • 図1

図1の特殊な場合として図9

  • 図9

のように2番目の装置(=装置B)の前にバッファがまったくない場合を例として取り上げます。これからの説明は、2番目の装置の前に有限のバッファがある場合でも基本的には同じです。
この場合、装置Bが処理中であれば装置Aで処理が完了しても装置Aにあるジョブは装置Aの外に出ることが出来ず、装置Aの中で装置Bが空くのを待つことになります。下の図10では装置Aでの処理を終えたが装置Aから外へ出られないジョブをピンク色で表しました。

  • 図10

この(ピンク色の)ジョブが装置Aで待っている間、装置Aは次のジョブを処理することが出来ません。そして装置Bの処理が終わった時にこのジョブは装置Bに移り、装置Aは次のジョブの処理を開始することになります。


さて、このような工場の状態をどのように表せばよいでしょうか? 私は次のように考えました。上の図10でのピンクのジョブは装置Bを待っているジョブと考え

  • 装置Bで処理中または装置Bの前で待っているジョブの数

が2であると考えます。そして、図9の工場においても無限容量バッファの場合と同じように工場の状態を

  • 装置Aで処理中または装置Aの前で待っているジョブの数

  • 装置Bで処理中または装置Bの前で待っているジョブの数

の組で表すことにします。ただし無限容量バッファの時とは異なり状態を表す組の後ろの数字は最大2までしかとれないとします。そして状態を表す組の後ろの数字が2の時は、装置Aでは処理中ではないので、状態を表す組の前の数字は、装置Aを待っているジョブの数とします。
また重要なことですが図9の工場の場合、状態の後ろの数字が2の時には、装置Aで処理終了する遷移はないことになります。また、状態の後ろの数字が1以下の場合は、装置Aで処理終了する確率レートは\mu_1になります。後ろの数字が2から1になった場合でも、装置Aの処理時間の分布は「記憶なし」特性を持つ指数分布なので、装置Aで処理終了する確率レートはやはり\mu_1になります。
遷移の例を2つ挙げます。図11は状態(1,1)→状態(0,2)の遷移です。

  • 図11


図12は状態(2,1)→状態(1,2)の遷移です。

  • 図12


このように考えると、状態遷移図の全体は以下の図のようになります。

  • 図13

この図から分かることは、無限容量バッファの場合と異なって、三角形の局所平衡によって全体の平衡を実現出来ない、ということです。そうなるとこの状態の全体について平衡方程式を作り、それを解くことになります。しかし、これは少し考えただけでかなり大変なことが予想できます。つまり図13から

  • p[0,1]\mu_2=p[0,0]\lambda・・・・(24)
  • p[1,0]\mu_1+p[0,2]\mu_2=p[0,1](\lambda+\mu_2)・・・・(25)
  • p[1,1]\mu_1=p[0,2](\lambda+\mu_2)・・・・(26)
  • k{\ge}1の時
    • p[k-1,0]\lambda+p[k,1]\mu_2=p[k,0](\lambda+\mu_1)・・・・(27)
    • p[k-1,1]\lambda+p[k+1,0]\mu_1+\p[k,2]\mu_2=p[k,1](\lambda+\mu_1+\mu_2)・・・・(28)
    • p[k-1,2]\lambda+p[k+1,1]\mu_1=p[k,2](\lambda+\mu_2)・・・・(29)

という平衡方程式が導き出されますが、これらを解く方法が私には分かりません。