有限容量バッファの挙動の解析(1)

有限容量のバッファの場合は解析が難しい」では、

  • 図9

のような2番目の工程の装置の前のバッファが有限(この場合はゼロ)の場合の工場の挙動の解析が難しい理由を述べました。しかし難しいと言って手をこまねいているわけにはいきません。少しでも挙動が分からないか検討してみます。


その前にブロック状態について定義しておきます。ブロック状態とは、装置Aを待っているジョブが存在しているのに、別のジョブが装置Aで処理終了後に装置Bに進むことが出来ずにいる状態のことを言います。つまりk{\ge}1の時の状態(k,2)をブロック状態と呼ぶことにします。状態(0,2)は装置Aで待っているジョブがいないので、ブロック状態ではありません。
さて、装置Bの稼働率が小さい場合はブロック状態の確率が小さいと考えられます。よってこの工場の定常状態確率は、無限容量バッファの時の定常状態確率に近いと推定されます。


これとは反対の極端として、装置Aで(処理中+待ち)のジョブ数が極めて多い場合を考えてみます。つまり状態(\infty,0)(\infty,1)(\infty,2)の場合を考えます。これらの状態から可能な遷移を考えてみると、これら以外の状態を考える必要がないことが分かります。そして状態遷移図は以下のようになります。

  • 図14

装置Aの前には無限にジョブが待っているので、新たにジョブが到着しても状態が変わりません。これが図14に、ジョブの工場への到着による遷移、つまりレート\lambdaの遷移、がない理由です。
さて、図14では装置Aでのジョブ数の情報がなくてもよいですから、装置Bでのジョブ数のみで状態を表すことにしても充分状態遷移図を表現出来ます。そこで図14を変形して図15とします。

  • 図15

装置Bでのジョブ数がkである定常状態確率をp[k]で表すことにします。すると図15から

  • p[0]\mu_1=p[1]\mu_2・・・・(30)
  • p[1]\mu_1=p[2]\mu_2・・・・(31)

が成り立ちます。よって

  • p[1]=\frac{\mu_1}{\mu_2}p[0]・・・・(32)
  • p[2]=\frac{\mu_1}{\mu_2}p[1]・・・・(33)

ここで

  • a=\frac{\mu_1}{\mu_2}・・・・(34)

と置くと式(32)(33)は

  • p[1]=ap[0]・・・・(35)
  • p[2]=ap[1]・・・・(36)

よって

  • p[2]=a^2p[0]・・・・(37)

となります。ところで

  • p[2]+p[1]+p[0]=1・・・・(38)

でなければならないので、式(35)(37)(38)から

  • (a^2+a+1)p[0]=1

よって

  • p[0]=\frac{1}{a^2+a+1}・・・・(40)

となります。ところで装置Bの稼働率u_2

  • u_2=1-p[0]・・・・(41)

なので、式(40)(41)から

  • u_2=\frac{a^2+a}{a^2+a+1}

となります。ところで

  • \frac{\lambda}{\mu_2}=u_2・・・・(7)

なので(ただし\lambdaスループットでした)

  • \lambda=u_2\mu_2

よって

  • \lambda=\frac{a^2+a}{a^2+a+1}\mu_2・・・・(42)

つまり、装置Aの前にどれだけジョブが待っていてもスループットは式(42)の\lambda以上増えない、ということです。言い換えれば、スループットがこの値に近づくと装置Aの前の待ちジョブ数は急速に増大する、ということになります。