迷走(2)

同じ装置構成で、同じ製品を製作する2つの工場を考えます。そして、その工場に材料を投入するタイミングは2つの工場で同じであるとします。片方の工場(工場1とします)ではどのステーションについてもその前のバッファの容量は制限しないようにします。もう片方の工場(工場2とします)ではあるステーションの前のバッファ容量に上限を設けます。


工場2ではバッファの容量を制限することでそのバッファでの平均ジョブ数を、工場1に比べて削減出来たとします。すると、そのことは工場2ではバッファが満杯になって前工程のステーションでの処理を止めている(=ブロッキングしている)ことを意味します。というのは、もし前工程のステーションでの処理を止めていないのであれば、工場2の各ステーションの動きは工場1の各ステーションの動きとまったく同じということになるので、今、注目しているバッファの平均ジョブ数は工場1でも工場2でも同じになるはずだからです。


よって、工場2では、前工程のステーションでのブロッキングが発生します。ブロッキングが発生すると、前工程ステーションでのジョブのうちいくつかは処理開始や処理終了の時刻が工場1に比べて遅くなります。このことがそれらのジョブのサイクルタイムを増大させる可能性があります。考察を簡単にするために各ステーションで処理するジョブを選択する方式はFIFO、つまり、そのステーションに到着した順番にジョブの処理を行うとします。また、工程の流れは単線であるとします。つまり、あるステーションの上流や下流のステーションはゼロか(先頭工程と最終工程)1(その他の工程)のいずれかであるとします。


すると、ジョブがある工程での処理完了が遅くなったことで、サイクルタイムが長くなるか、あるいは変わらないか、のどちらかになることが分かります。つまり、そのジョブのサイクルタイムが短くなるなどということは少なくともないことが分かります。


工場2において、あるジョブの、ある工程での処理完了が工場1に比べて遅くなったにもかかわらず、そのジョブのサイクルタイムが工場1の場合と変わらない場合、というのは次のような場合です。工場2でそのジョブがその工程を遅れて出発し、次の工程に到着したとしてもその工程の前には、そのジョブより前に処理を完了した他のジョブが次の工程で待ち行列を作っている場合です。この場合、工場1でそのジョブが早く次の工程に到着したにしても、やはりそこで待ちジョブの後ろに並ぶことになりますから、結局、その工程で処理が開始されるのは工場1でも工場2でも同じ時刻になるわけです。このような場合は、工場1と工場2とで、ジョブのサイクルタイムが同じになります。


工場1と工場2で個々のジョブを比較した場合、工場2の場合に、工場1に比べてサイクルタイムが等しいか大きいので、平均サイクルタイムを比較すれば、工場2のサイクルタイムは工場1のサイクルタイムに等しいか、それより長い、ということになります。
工場1と工場2では同じタイミングでジョブを投入しています。もし、工場1でも工場2でも定常状態になっていると仮定すれば、工場1でも工場2でもジョブが工場に入る流量と工場から出る流量は同じになります。よって工場1と2でスループットは同じになります。よってリトルの法則から、工場2の平均WIPは工場1の平均WIPに等しいか、それより大きい、ことが導かれます。