バッチ装置の待ち行列の解析(5)

バッチ装置の待ち行列の解析(4)」で平衡方程式

  • 2up(0)=p(1)・・・・(17)
  • p(1)(1+2u)=2up(0)+p(2)+p(3)・・・・(18)
  • p(k)(1+2u)=2up(k-1)+p(k+2)  (k{\ge}2)・・・・(19)

を得ることが出来ました。では、これを解くことを考えます。まず、(17)を(18)の右辺に代入すると

  • p(1)(1+2u)=p(1)+p(2)+p(3)

よって

  • 2up(1)=p(2)+p(3)・・・・(20)

となります。式(19)でk=2とすると

  • p(2)(1+2u)=2up(1)+p(4)・・・・(21)

となりますが、この右辺に式(20)を代入すると

  • p(2)(1+2u)=p(2)+p(3)+p(4)

よって

  • 2up(2)=p(3)+p(4)・・・・(22)

となります。どうもこれを繰り返していけば

  • 2up(k)=p(k+1)+p(k+2) k{\ge}1・・・・(23)

が成り立ちそうです。これを数学的帰納法で証明しておきます。
k=1の時に式(23)が成り立つのは、式(20)から明らかです。k=n{\ge}1の時に式(23)が成り立つと仮定して、k=n+1の時に式(23)が成り立つことを証明します。k=nの時に式(23)が成り立つので

  • 2up(n)=p(n+1)+p(n+2)・・・・(24)

また、式(19)にk=n+1を代入すると(この時k{\ge}2となるので式(19)を適用出来る)、

  • p(n+1)(1+2u)=2up(n)+p(n+3)・・・・(25)

式(25)の右辺に式(24)を代入して

  • p(n+1)(1+2u)=p(n+1)+p(n+2)+p(n+3)

よって

  • 2up(n+1)=p(n+2)+p(n+3)

よってk=n+1の時に式(23)が成り立つことが証明されました。よってk{\ge}1の時に式(23)が成り立ちます。


このようにして平衡方程式は

  • 2up(0)=p(1)・・・・(17)
  • 2up(k)=p(k+1)+p(k+2) k{\ge}1・・・・(23)

と変形されました。これらを解いて各状態kの定常状態確率p(k)を求めたいですが、解き方がなかなか分かりませんでした。p(k)にはもうひとつ満たさなければならない式があります。それは全ての状態確率を足すと1になるというものです。よって次の式も一緒に考慮しなければなりません。

  • \Bigsum_{k=0}^{\infty}p(k)=1・・・・(26)


解き方をいろいろ試行錯誤して最後に思いついたのは、uがゼロに近い時には装置はほとんど常に1ジョブで処理するので、定常状態確率の分布はw=t_a/t_eとした場合の稼働率wのM/M/1待ち行列とほぼ同じ分布になるのではないか、ということです。稼働率wのM/M/1待ち行列の場合、

  • p(k+1)=wp(k)・・・・(27)

となります。そこでこれを式(23)に代入すると左辺は(w=2uであることに注意すれば)

  • 2up(k)=wp(k)・・・・(28)

となり、右辺は

  • p(k+1)+p(k+2)=wp(k)+w^2p(k)・・・・(29)

となりますが、wが0に近い値なのでw^2は無視してもよいと考えれば式(28)と(29)は等しくなります。逆にuが1に近い時には装置はほとんど常に2ジョブで処理するので稼働率uのM/M/1待ち行列とほぼ同じ分布いなるのではないか、と考えました。しかし、これはあまり根拠がありません。M/M/1待ち行列と異なるのは、到着は1ジョブずつ発生するのに、処理は2ジョブまとめて行う点です。このようにあまり根拠はないのですが、

  • p(k+1)=up(k)・・・・(30)

となると仮定してみました。これを式(23)の右辺に代入すると

  • p(k+1)+p(k+2)=up(k)+u^2p(k)・・・・(31)

となりますが、uは1に近いのでu^2\approx{u}と考えれば式(31)は式(23)の右辺2up(k)に近似的に等しくなります。ここから推測されるのはp(k)とp(k+1)の関係は、uがゼロに近い時には(w=2uであることに注意すれば)

  • p(k+1){\approx}2up(k)・・・・(32)

uが1に近い時には

  • p(k+1){\approx}up(k)・・・・(33)

ではないかといことです。そこで

  • p(k+1)=aup(k) k{\ge}1・・・・(34)

と置いてみました。aはあとで求めることにします。aの値はuがゼロに近い時には2、uが1に近い時には1、に近い値になると予想されます。式(34)を式(23)に代入すると

  • 2up(k)=aup(k)+a^2u^2(k)
  • 2=a+a^2u
  • ua^2+a-2=0・・・・(35)

式(35)はu=0の時は一次方程式、u>0の時は二次方程式になります。式(35)を解くと

  • a=2  u=0
  • a=\frac{-1+\sqrt{1+8u}}{2u}・・・・(36)

aの式は煩雑になったので、以下aをそのままにして計算を進めます。


式(34)から

  • p(k)=au^{k-1}p(1) k{\ge}1・・・・(37)

となります。さらに式(17)を用いれば

  • p(k)=2u(au)^{k-1}p(0) k{\ge}1・・・・(38)

となります。式(26)の左辺に式(38)を代入すると

  • \Bigsum_{k=0}^{\infty}p(k)=p(0)+\Bigsum_{k=1}^{\infty}2u(au)^{k-1}p(0)=p(0)+2up(0)\Bigsum_{k=1}^{\infty}(au)^{k-1}
    • =p(0)+2up(0)\frac{1}{1-au}=p(0)+\frac{2u}{1-au}p(0)=\frac{1-au+2u}{1-au}p(0)=\frac{1+(2-a)u}{1-au}p(0)

式(26)によれはこれが1にならなければならないので、

  • \frac{1+(2-a)u}{1-au}p(0)=1

よって

  • p(0)=\frac{1-au}{1+(2-a)u}・・・・(39)

これを式(38)に代入して

  • p(k)=\frac{2u(1-au)}{1+(2-a)u}(au)^{k-1} k{\ge}1・・・・(40)

式(39)と(40)と(36)で定常状態確率p(k)の分布を求めることが出来ました。