バッチ装置の待ち行列の解析(7)

  • グラフ2

バッチ装置の待ち行列の解析(6)」で得た上のグラフは、なかなか興味深いです。このグラフを見ていると、では装置の処理時間の分布が指数分布でない場合はどうなるのか、たとえば処理時間が一定の場合にはどうなるのか、とか疑問が湧いてきます。到着間隔の分布も指数分布以外の場合にはどうなるか、という疑問が湧いてきます。それからバッチサイズが2ジョブではなくて、3ジョブ、4ジョブと増えた場合、例えば10ジョブになった場合はこの結果はどう変わるのか、興味があります。興味があるのですが、そのうちどれだけの疑問を解決出来るのかと考えると心もとないものがあります。


さて上のグラフは、「なりゆきバッチルール」は稼働率の低い場合には待ち時間に関して「必ずバッチルール」よりも優れていることを示していますが、このことから「必ずバッチルール」よりも「なりゆきバッチルール」を用いるべきだ、と結論づけることは出来ません。例えば、装置稼働率が10%の場合、ジョブはポツ、ポツ、と到着しますのでほとんどの場合装置は1ジョブで処理を行うことになります。これは装置の能力の観点からは能力の無駄遣いです。装置は2ジョブ一度に処理出来るのに1ジョブで処理しているからです。それで、装置の稼働時にかかるコスト(電気とか水とか薬品とかのコスト)にセンシティブな人が見たら、このようなバッチ構成ルールは容認出来ないものに見えるでしょう。かといってこのようにジョブの平均到着間隔が長い場合、2ジョブそろうまで処理を保留するとジョブの待ち時間が長くなります。ここで浮かび上がってくるのは、装置の稼働コストとジョブのサイクルタイムのトレードオフということです。ジョブのサイクルタイム短縮の効果を何らかの形で金額に換算し、それが装置を余分に使用するコストに比べて大きいかどうかでどちらのルールを使うかを決めることになるでしょう。ジョブのサイクルタイム短縮の効果を金額に換算する方法についてはいろいろな考え方がありますので、ここではこれ以上追及しません。ここでは「なりゆきバッチルール」の場合に装置をどの程度余分に使っているかを調査してみようと思います。


ここで装置の稼働率とは別に装置の占有率を考えてみます。このシリーズの考察では装置の稼働率は装置のスループットを元に定義しています。これとは別に、1ジョブで処理しようが2ジョブで処理しようが装置を占有して使用している時間の総時間に対する割合を占有率と呼ぶことにします。例えば、装置に空き時間がまったくなく常に1ジョブで処理しているような場合は、この装置の稼働率は50%ですが占有率は100%ということになります。「なりゆきバッチルール」の占有率は、1−(装置が空いている確率)、つまり1-p(0)で簡単に求めることが出来ます。「なりゆきバッチルール」の場合の装置の占有率をu_{oc1}で表わすとすると

  • u_{oc1}=1-p(0)・・・・(47)

です。p(0)は「バッチ装置の待ち行列の解析(5)」ですでに求められていて、

  • p(0)=\frac{1-au}{1+(2-a)u}・・・・(39)

でした。よって

  • u_{oc1}=1-\frac{1-au}{1+(2-a)u}=\frac{1+(2-a)u-1+au}{1+(2-a)u}=\frac{2u}{1+(2-a)u}

よって

  • u_{oc1}=\frac{2u}{1+(2-a)u}・・・・(48)

となります。一方、「必ずバッチルール」の場合は装置の占有率と稼働率は常に一致します。「必ずバッチルール」の場合の装置の占有率をu_{oc2}で表わすと

  • u_{oc2}=u・・・・(49)

両者の占有率の差は「なりゆきバッチルール」の場合に「必ずバッチルール」よりどれだけ装置を余分に使用しているかを表わします。では両者の占有率とその差をグラフに示してみます。

  • グラフ3

上のグラフで差のカーブが示しているのが、「なりゆきバッチ」によって余分に費やされる装置の占有率です。「必ずバッチルール」には装置占有率が低いという利点があります。どちらのバッチ構成ルールを用いるかは、最初のグラフだけでなくこのグラフも考慮して決定すべきでしょう。