バッチ装置の待ち行列の解析(10)

バッチ装置の待ち行列の解析(9)」のつづきです。ここから先に進むためには、2ジョブバッチ、「なりゆきバッチルール」の場合の重負荷極限定理を導き出す必要があります。「重負荷極限定理(1)(2)」の考察に沿って、2ジョブバッチ、「なりゆきバッチルール」の場合の重負荷極限定理を導き出します。なお、装置の台数は1台とします。


待ちジョブが1よりかなり多くある状態が続く期間が時刻0からtまであったとします。時刻0からその期間内の任意の時刻rまでに到着したジョブの数をA(r)で表すことにします。また、時刻0からその期間内の任意の時刻rまでに処理が開始されたジョブの数をD(r)で表すことにします。u\rightar{1}になるとtがどんどん長くなります。その場合A(t)D(t)の分布はそれぞれどうなるでしょうか?
ジョブの到着分布はGIなので各間隔の確率が独立です。このため「確率変数の和の個数の分布について」で述べたことが適用出来て、A(t)正規分布に近づくことが言えます。そしてA(t)の平均m_Aは、ジョブの到着間隔の平均をt_aとすると「確率変数の和の個数の分布について」の最後に述べたことから

  • m_A=n_a・・・・(61)

となり、「確率変数の和の個数の分布について」の式(9)によりn_a=t/t_aとなるので

  • m_A=\frac{t}{t_a}・・・・(62)

となります。A(t)標準偏差\sigma_Aは、ジョブの到着間隔の標準偏差\sigma_aで表すと「確率変数の和の個数の分布について」の最後に述べたことから

  • \sigma_A=\sqrt{n_a}\frac{\sigma_a}{t_a}

よって

  • \sigma_A=\frac{\sigma_a}{t_a}\sqrt{\frac{t}{t_a}}・・・・(63)

となります。


一方処理が開始されたジョブ数D(t)については、時刻ゼロからtまで装置kは常に2ジョブで処理中です。よってジョブの処理開始という現象も、前に処理開始が起きた時刻からある確率分布に従う時間後に次の処理開始があり、かつ、その確率分布は変わらない、ということが言えます。よって、「確率変数の和の個数の分布について」で述べたことが適用出来て、D(t)正規分布に近づくことが言えます。さてD(t)の平均m_Dは、処理時間の平均をt_eとすると、1回の処理開始で2ジョブが一度に処理開始されることを考慮すれば

  • m_D=\frac{2t}{t_e}・・・・(64)

となります。D標準偏差\sigma_D(k)は、処理時間の標準偏差\sigma_eで表すと「確率変数の和の個数の分布について」の最後に述べたことと、1回の処理開始で2ジョブが一度に処理開始されることを考慮すれば

  • \sigma_D=\frac{2\sigma_e}{t_e}\sqrt{\frac{t}{t_e}}・・・・(65)

となります。u\rightar{1}D(t)は式(64)で与えられる平均と式(65)で与えられる標準偏差を持つ正規分布に近づきます。


さて、時刻ゼロの時の待ちジョブ数、つまり待ち行列長をQ(0)で表し、時刻tの時の待ち行列長をQ(t)で表します。すると

  • Q(t)=Q(0)+A(t)-D(t)・・・・(66)

となります。では、u\rightar{1}になった時のQ(t)の分布はどうなるでしょうか? Q(0)は定数であり、A(t)D(t)はそれぞれ正規分布に従う確率変数でした。さらに、待ちジョブがある限りジョブの到着とジョブの処理開始は独立に発生するので、A(t)D(t)は独立です。よってQ(t)もまたu\rightar{1}正規分布に近づきます。ではu\rightar{1}の時のQ(t)の平均m_Q標準偏差\sigma_Qはどうなるでしょうか? 式(66)(62)(64)から

  • m_Q=Q(0)+m_A-m_D=Q(0)+\left(\frac{1}{t_a}-\frac{2}{t_e}\right)t=Q(0)+\left(\frac{t_e}{2t_a}-1\right)\frac{2t}{t_e}

ここで「バッチ装置の待ち行列の解析(4)」の

  • u=\frac{t_e}{2t_a}・・・・(2)

を用いれば

  • m_Q=Q(0)-(1-u)\frac{2t}{t_e}・・・・(67)

また式(66)(63)(65)から

  • \sigma_Q^2=\sigma_A^2+\sigma_D^2=\frac{\sigma_a^2}{t_a^2}\cdot\frac{t}{t_a}+\frac{4\sigma_e^2}{t_e^2}\cdot\frac{t}{t_e}=c_a^2\frac{t}{t_a}+4c_e^2\frac{t}{t_e}=\left(c_a^2\frac{t_e}{2t_a}+2c_e^2\right)\frac{2t}{t_e}

よって

  • \sigma_Q^2=(uc_a^2+2c_e^2)\frac{2t}{t_e}・・・・(68)

となります。


さて、u\rightar{1}tはどんどん長くなるのですが、ここでt軸とQ軸を縮小することにより、このQ(t)ブラウン運動に近くなっていきます。具体的には

  • \tau=(1-u)^2t・・・・(69)

と置き

  • x(\tau)=(1-u)Q(t)・・・・(70)

と置きます。こうすると、今までtが大きな値にならないとQ(t)正規分布にならなかったことが、t軸を無限に縮小することにより\tau軸の任意の増加についてx(\tau)正規分布になります。このことはx(\tau)ブラウン運動になることを示しています。xの平均m_xは式(67)(70)から

  • m_x=(1-u)m_Q=(1-u)\left[Q(0)-(1-u)\frac{2t}{t_e}\right]=(1-u)\left[Q(0)-\frac{2\tau}{t_e}\right]・・・・(71)

となり、xの分散\sigma_x^2は(68)(70)から

  • \sigma_x^2=(1-u)^2\sigma_Q^2=(1-u)^2(uc_a^2+2c_e^2)\frac{2}{t_e}t=(1-u)(uc_a^2+2c_e^2)\frac{2}{t_e}\tau・・・・(72)

となります。ここで「ブラウン運動」の「ドリフトのあるブラウン運動」の式(36)(37)と対比させると

  • b=-(1-u)\frac{2}{t_e}・・・・(73)
  • a^2=(1-u)(uc_a^2+2c_e^2)\frac{2}{t_e}・・・・(74)

となることが分かります。「ドリフトのあるブラウン運動」の式(40)によれば、この場合、時間の経過で変化しないxの確率密度p(x)が存在して、

  • p(x)=\frac{2b}{a^2}\exp\left(\frac{2b}{a^2}x\right)・・・・(75)

となることが分かっています。これは指数分布なので確率変数xの(集合)平均をE[x]で表すと

  • E[x]=-\frac{a^2}{2b}・・・・(76)

となります。式(76)に(73)(74)を代入すると

  • E[x]=(1-u)(uc_a^2+2c_e^2)\frac{2}{t_e}\times\frac{1}{2(1-u)\frac{2}{t_e}}

よって

  • E[x]=\frac{uc_a^2+2c_e^2}{2}・・・・(77)

となります。このブラウン運動による待ち行列Q(t)の挙動の近似はu\rightar{1}の時のみ有効でしたので式(77)は

  • \lim_{u\rightar{1}}E[x]=\frac{c_a^2+2c_e^2}{2}・・・・(78)

と書くのがより正確に事態を表しています。


一方、式(70)のx(\tau)Q(t)は確率変数なので、その集合平均を考えることが出来ます。これをE[\cdot]で表すと

  • E[x(\tau)]=(1-u)E[Q(t)]・・・・(79)

となります。ここで待ち行列の定常状態が存在すると仮定すると

  • E[x]=(1-u)E[Q]・・・・(80)

となります。ここでE[Q]の意味を考えればそれは平均待ち行列L_qにほかなりません。よって

  • (1-u)L_q=E[x]・・・・(81)

です。式(78)と(81)から

  • \lim_{u\rightar{1}}(1-u)L_q=\frac{c_a^2+2c_e^2}{2}・・・・(82)

これが、2ジョブバッチ、「なりゆきバッチルール」の場合の重負荷極限定理になります。