M/G/s/s待ち行列への考察(1)

M/G/1/1待ち行列(3)」の続きです。
M/G/1/1待ち行列では、定常状態確率分布がサーバのサービス時間分布の形に依存せず、トラフィック強度u(サーバの稼働率と書きたいところですが、待ち行列長が有限で、ジョブが到着した際に待ちスペースに空きがない場合にはそのジョブはどこかへ行ってしまう、という仮定の下ではu稼働率にはなりません)のみの関数になる、ということが明らかになりました。そこで次に私が考えたのは、ひょっとしてM/G/s/s待ち行列でも定常状態確率分布が、サーバのサービス時間分布に依存しないのではないか、ということです。


ところがこれを証明しようとしてもうまくいきませんでした。たとえば一番簡単なM/G/2/2待ち行列を考えます。これはサーバが2台あって、2台とも処理中の場合はもうジョブを受け付けないような待ち行列です。これを「M/G/1/1待ち行列(3)」と同様に考察してみます。
まず、到着間隔分布が指数分布なのでPASTAが成り立ちます。ということはジョブが到着した時、M/G/2/2待ち行列にジョブがゼロ個である確率は、定常状態確率と同じp(0)になります。ジョブが到着した時、M/G/2/2待ち行列にジョブが1個である確率は同様にp(1)になります。次に、このシステムにジョブが到着するのは単位時間あたり

  • \frac{2u}{t_e}

なので、単位時間あたり、状態0から状態1への遷移が発生する回数は

  • \frac{2u}{t_e}p(0)・・・・(1)

単位時間あたり、状態1から状態2への遷移が発生する回数は

  • \frac{2u}{t_e}p(1)・・・・(2)

となります。定常状態では、状態0→1の遷移が単位時間あたりに発生する回数の平均は、状態1→0の遷移が単位時間あたりに発生する回数と等しくなければならず、また、状態1→2の遷移が単位時間あたりに発生する回数の平均は、状態2→1の遷移が単位時間あたりに発生する回数の平均と等しくなければなりません。


ここで、状態1→0の遷移、あるいは、状態2→1の遷移、が単位時間あたりに発生する回数が分かればよいのですが、状態1→0の場合、M/G/1/1のときとは異なり「状態0→1の遷移が発生してから平均t_e後に状態1→0の遷移が起きる」とは必ずしも言えません。それは状態1→2の遷移が発生する可能性があるからです。次に状態2→1の遷移について考えると、状態1→2の遷移が起きてから平均t_e後に2つの処理終了が起きることは言えますが、1つ目の処理終了が平均どれだけ後に起きるかが分かりません。このため、M/G/1/1のような証明は出来ません。