EDVACに関する第一草稿(First Draft of a Report on the EDVAC) 4.素子、同期、ニューロンのアナロジー (フォン・ノイマン著)

4.1.

  • 若干の一般的な見解から議論を進める。
  • 全てのデジタル計算装置は、離散の平衡状態を持つ、若干リレーに似た素子を含んである。そのような素子は、無期限に存在出来る2つ以上の互いに区別出来る状態を持つ。これらは完全な平衡状態であるかもしれず、その場合、素子はその各々に外部からのサポートなしに留まり、適切な外部刺激が素子をある平衡状態から別の平衡状態に遷移させる。あるいは、2つの状態があり、その一つは、外部サポートがない時に存在する平衡状態であり、もう一方はその存在が外部刺激の存在に依存するようなものである。リレー動作は、上に示したタイプの刺激を受けた時はいつでも素子が刺激を放出するものとして示される。放出される刺激は受け取った刺激と同じ種類のものでなければならない。つまり、それらは他の素子を刺激することが出来なければならない。しかしながら受けた刺激と出した刺激の間にはエネルギーの関係があってはならない。つまり、1つの刺激を受けた素子は同じ強度の複数の刺激を出すことが出来なければならない。言い換えれば、素子はリレーであるので、入ってくる刺激とは別のところからエネルギー供給を受けなければならない。
  • 既存のデジタル計算装置ではさまざまな機械的な、あるいは電子的な装置が素子として使われてきた。それらは、車輪であって、10個(あるいはそれ以上の)目立った位置の一つに固定出来、ある位置から別の位置に動くときに、同じような別の車輪を動かすような電気パルスを伝えるようなものであったり、単一の、あるいは組合された電信のリレーで、電磁石によって作動し、電気回路を開閉するものであったり、これら2つの素子の組合せだったりする。そして最終的には真空管の使用のもっともらしくそして心をそそる可能性が存在し、そこではグリッドがカソード・プレート間の回路のバルブ(弁)として動作している。最後に述べたケースでは偏向組織によっても置き換え可能である。つまり真空管陰極線管に置き換え可能である。しかし、ここしばらくは、真空管の性質のより大きな利用可能性と電子的なさまざまの優位性が、最初のやり方を前面に保つことはありそうである。
  • このような装置はどれでも、その素子の次に続く反応時間によって自動的に自分の時刻を決めるだろう。この場合、全ての刺激は究極的には入力に由来しなければならない。あるいはそうでなければ、それらは固定の時計によって刻まれたタイミングを持ち、その時計は明確な周期で繰り返す瞬間において装置の動作に必要なある刺激を提供するだろう。この時計は機械的、あるいは機械電気混合の装置内の回転する軸であるかもしれないし、純粋に電子的な装置内の(たぶん水晶で制御された)電気振動子かもしれない。装置が同時に遂行するいくつかの区別出来る一連の動作の同期に信頼を置くべきであるならば、時を刻む時計は明らかに望ましい。我々は素子という用語を上に定義した技術的な意味で用い、装置のタイミングが上に述べたように、時計によって刻まれるのか自動的に刻まれるのかによって、装置を同期的とか非同期的とか呼ぶことにする。

4.2.

  • 高等動物のニューロンが上記の意味で確かに素子であることは言及する価値がある。それらは全か無かの性質、つまり休止と興奮の2つの状態を持つ。それらは興味深い変奏を伴った形で4.1の要求を満足する。興奮したニューロンは多くの線(軸索)に沿って標準の刺激を放出する。しかしそのような線は次のニューロンと2つの異なる方法で接続出来る。1番目は興奮性のシナプスによってで、そこでは刺激はニューロンの興奮を引き起こす。2番目は抑制性のシナプスによってで、そこでは刺激は、他の(興奮性)シナプスでの刺激によるニューロンの興奮を完全に抑制する。ニューロンは刺激の受容と、それによってひきおこされた刺激の放出の間の、一定の反応時間も持っており、それがシナプス遅延である。
  • W.S.マカロックとW.ピッツの「神経活動に内在する観念の論理計算」(“A logical calculus of the ideas immanent in nervous activity,” Bull. Math. Biophysics, Vol. 5 (1943), pp. 115-133)に従い、ニューロンの機能のより複雑な側面、閾値や、時間的荷重、相対的抑制、シナプス遅延を越えての刺激の後効果による閾値の変化、など、を無視する。しかし、2か3の固定した閾値を持つニューロンを時々考えるのは便利である。つまり、2つか3つの興奮性シナプスでの(同時の)刺激だけで(そして抑制性のシナプスでは刺激なし)興奮させることが出来るニューロンである({6.4}参照)。
  • これらの単純化したニューロンの機能は電信リレーや真空管で模擬出来ることは容易に分かる。神経系はおそらく(シナプス遅延の間、)非同期であるが、同期設定を用いることで正確なシナプス遅延を得ることが出来る({6.3}参照)。

4.3.

  • 超高速計算装置は理想的には真空管素子を持つべきであることは明白である。カウンタやスケーラのような真空管集合体は使用されてきており、反応時間(シナプス遅延)がマイクロ秒(=10^{-6}秒)程度で信頼出来ることが分かっており、これは他の装置では近似できない性能である。確かに、純機械的装置は完全に無視され、実用的な電信リレーの反応時間は10ミリ秒(=10^{-2}秒)以上のオーダーである。興味深いことに、人間のニューロンシナプス遅延はミリ秒(=10^{-3}秒)のオーダーである。
  • 以降の考察では我々はその結果、装置は真空管を素子として持つと仮定する。また我々は、関係する真空管の数やタイミングなどの全ての見積もりを、使用する真空管のタイプは従来の市販のものであるという原則に基づいて行おうとする。つまり、普通でない複雑なものや根本的に新しい機能を持つ真空管は使用しないということである。新しいタイプの真空管を使用する可能性は、従来タイプ(あるいは若干の等価な素子、{}参照)での綿密な分析のあとで実際により明確になるだろう。
  • 最後に、同期式の装置は多くの利点を持つと思われる({6.3}参照)。