聖杯伝説をめぐって(2)
これは聖杯伝説について私が思っていること感じていることを気ままに書いているものです。
ユングの夢のつづきです。
私はなんとなく心細くて周囲を見まわすと、私が高い城壁に立っていることがわかった。城壁の下の方は一種の講師垣で囲んであったが、それは通常の木製ではなく、黒い鉄で作られており、その鉄は、葉や蔓(つる)やぶどうの房のあるぶどうの樹に、精巧に造形されていた。水平の枝々には2メートルごとに、鳥の巣箱のような小さな鉄製の小屋が並んでいた。突然、私は葉の繁みのなかに動くものが見えた。はじめはねずみのように思ったが、しばらくしてそれが小さな、鉄の、頭巾をかぶった小人(グノーム)、つまりククラトスであって、小屋から小屋へちょこちょこと走りまわっていることが、はっきり見えた。「おや」、私はびっくりして教授に大声で叫んだ「それ、そこを見てごらん」。
この瞬間に夢は途切れ、場面が一変した。われわれは――先程と同じ仲間であったが、教授はいなかった――、城外におり、そこは樹木の一本もない岩だらけの風景であった。
「ユング自伝 2」の「IX 旅」より
- 作者: カール・グスタフ・ユング,アニエラ・ヤッフェ,河合隼雄,藤繩昭,出井淑子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1973/05/11
- メディア: 単行本
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「ククラトス」という言葉が分からなかったのでネットで調べましたが、ひっかかりませんでした。小人の種類の名前でしょうか? それはともかく、ユングは夢の中で老モムゼンそっくりの教授に対して、小人を、つまり生きている神話を指摘したようです。しかし、その途端、教授は仲間から外されたのでした(「先程と同じ仲間であったが、教授はいなかった」)。
なにかが起こるに違いないと私にはわかっていた。というのは、聖杯はまだ城内にないのに、今夜お祭りが催されることになっている。聖杯は島の北端部にある無住の小さな家に隠されているということであった。聖杯を城に運ぶのがわれわれの仕事だと、私は思った。われわれの約6名のものが仕度して、北へ向かって歩いて行った。
数時間の、相当きつい行軍の後に、われわれは島のもっとも幅の狭いところに着いた。そこでは入江が島を二分していることに気付いた。この海峡の最短部は、約100mの幅であった。陽は沈み、夜となった。われわれは疲れはて、その場所にキャンプを張った。このあたりは人の気配もなく、荒れ果てていた。樹木も潅木なく、草と岩ばかりであった。どこにも橋も舟もなかった。非常に寒くて、私の仲間たちは次々と眠りこんで行った。どうすべきかと私は考え、私一人で海峡を泳いで渡って、聖杯を持ってこなければならないという結論になった。私は衣類を脱ぎ、そのとき目が覚めた。
「ユング自伝 2」の「IX 旅」より
探求されるべきものとしての「聖杯」の性格が、この夢の中でも踏襲されています。聖杯は何か貴重なもので、それを用いて儀式を行うことが何かとても大切らしいのでした。では「聖杯」とはそもそも何なのか、ということが次に問題になります。