ボトルネックのスケジューリングにはスケジューラを使え?

鋭い論理で工場運用の革新の方法を説いてきたゴールドラットTOCですが、半導体ファブのように繰り返し工程が多く、さらにそれがセットアップと絡む場合、どのように適用すればよいのか、途方にくれていました。特に「さまざまな課題」で述べたように「いつレシピを切り替えるか(セットアップを行うか)」をどう決定すればよいのか皆目わかりませんでした。そんな日々が長く続いたあとにゴールドラットの「チェンジ・ザ・ルール」

にある以下に引用する記述が気になりました。

 スコットレニーの説明には触れず、結論を急がした。「つまり、APSの開発メーカーを買収する必要はなく・・・・」
「いやいや、そんなことは言っていない」レニーが、スコットの言葉に割って入った。「APSは必要だ」
「どうして? 何のために?」
ボトルネックのスケジューリングに必要なんだよ」
ボトルネックのスケジューリングなんて、大したことないと思っていた。手作業でもできると考えていたよ」
「ああ。ただ、いつもゲリーの工場のように簡単なわけではない」
スコットが説明をもっと求めているのを察して、レニーは続けた。「たとえば、インテロジックのクライアントに、イリグテックという会社がある。ここも訪問してきたんだが、この会社には問題を複雑にする要因が二つある。まず、(中略)。もう一つは、ほとんどの製品がボトルネックとなっているワークセンターでの作業を一回だけでなく、何度か必要とすることだ。この二つが組み合わさると、手作業での対応はかなり厄介なことになる。
 他にもあるぞ。手作業での対応がもっと厄介な場合だよ。たとえば、特殊なプラスチックを扱っている会社があるとしよう。そのワークセンターの一つは、プラスチックに色づけ作業を行う。ある黒い部品の色づけ作業が終わって別の黒い部品の色づけ作業に移るには、器具をいくつか取り替えるだけで、ほんの五分ほどでセットアップも済む。だけど、黒い部品から白い部品の処理に移る場合は、もっと時間がかかる。五分どころか五時間かかるかもしれない。機械をほとんど解体して、きれいにクリーニングしなければいけないからだ。そこまでしないと、白ではなくグレーの部品ができ上がってしまう。いわゆる<順序依存型セットアップ時間>というやつだ。・・・

例によってこの本は小説によってゴールドラットの考えを伝えているのですが、この場面に到達する前に彼らはTOCの原理を受け入れている、ということになっています。その上でレニーが「APS(=Advanced Planning and Scheduling:製造工程スケジューラ)は・・・ボトルネックのスケジューリングに必要だ」と言っています。そしてその理由として以下の場合(そのほかの場合もありますが、引用を省略しました)はボトルネックのスケジューリングが人手では難しい、と言っています。

これらは半導体ファブに当てはまることだと思います。そうすると、いつセットアップを行うか(レシピを切り替えるか)を決定するのは人手では容易ではなく、スケジューラを利用するしかないとゴールドラットも認めている、と私は推測しました。ただ、この小説で強調しているのは、スケジューリングするのはボトルネックのみである、ということです。工場内の全てをスケジューリングしてもその解は、ほんの少しの状況の変化で変化する、安定性の少ない解である、と見ているからです。そのあたりを描いた箇所を引用します。

まる一週間、スケジュールにきっかり従ったとしても、次の週にスケジュールを再度作成してみると、前のスケジュールとまったく違ってくるんだ。あれを見て最適化(オプティマイゼーション)の範囲を制約条件(コンストレインツ)に限ることがいかに重要か、気づいたよ。それ以上に範囲を広げても効果はない。逆に効果を半減させてしまう。スケジュールが不安定になってしまうんだ。

・・・レニー、それで君はどうすべきだと思うんだ?」
「インテロジック社を買収して、彼らのシステムを我が社のMRPモジュールに組み込んだらどうだろう。ただ慎重を期す必要がある。最適化を行うのはボトルネックだけにして、適切な場所にバッファーを挿入する。そして、効果的なバッファー・マネジメントを図る・・・

 また、同じく「さまざまな課題」で述べた、製品ミックスによってボトルネックが移動する場合についても、いくつかのボトルネック候補について同様にスケジューリングすることで、改善の可能性があるのだろうと考えています。