バーコフの個別エルゴード定理 記述1

バーコフの個別エルゴード定理」の続きです。まず記述1について考えてみます。

【記述1】
集合Eを考える。Eの測度は1とし、かつEは保測変換TによってEそれ自身に変換されるものとする。E上で定義された複素数値関数f(x)を考える。f(x)xに関し可測であるとする。

  • \Bigint_E|f(x)|dx<\infty

であるとする。ここで

  • f_N(x)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)

と定義する。


バーコフの個別エルゴード定理
測度0であるようなxの集合を除いては

  • f^*(x)=\lim_{N\rightar\infty}f_N(x)

が存在する。

でした。集合Eについては、記述3に
\Bigint_0^1f(x)dx
と出てくるので、これは0から1までの区間と考えればよいと思います。保測変換とは測度を保存する変換です。ここで点xは無限の過去から無限の未来にかけて定義される確率過程のある1つの実現値(値というか1つの関数)を表しています。これをg(x,t)と表すことにします。変換Tは、g(x,t)を時間\tauだけズラした関数を表すような点x'に点xを対応させるような変換です。つまり

  • g(x,t+\tau)=g(x',t)

となるようなxからx'への変換です。これが保測変換であるということは、時刻tで定義された任意の確率の値が時刻t+\tauでも同じ値をとる、ということを意味しています。2t後の点はTTx=T^2xで表され、3t後、4t後・・・・の点は、それぞれT^3xT^4x・・・・で表されます。もう少し数学的に記述すると

  • f(x)=g(x,0)

であり、

  • g(x,t+\tau)=g(Tx,t)

なので

  • f(Tx)=g(Tx,0)=g(x,\tau)
  • f(T^2x)=g(Tx,\tau)=g(x,\tau+\tau)=g(x,2\tau)
  • f(T^3x)=g(Tx,2\tau)=g(x,2\tau+\tau)=g(x,3\tau)

・・・・・・・・・・・・・・
となります。すると、

  • f_N(x)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)

というのは

  • f_N(x)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Ng(x,nt)

となり、

  • f^*(x)=\lim_{N\rightar\infty}f_N(x)

は、時間t間隔で測定したf(x)の値の(無限)時間平均を表しています。バーコフの定理は測度0であるようなxの集合を除いては上記f^*(x)が存在することを主張しています。バーコフの定理の証明には測度論の理解が必要だということだそうです。私は測度論を理解していませんので、定理の証明をだいたいでも示すことが出来ません。それにしても、これが「平均値が存在する」ということを主張する定理だと分かったので、数学的センスの少ない私にはそれが異様に思えます。「えっ! 平均が存在しないことがあるの?」と逆に思ってしまいます。
バーコフの個別エルゴード定理 記述2」に続きます。