バーコフの個別エルゴード定理 記述2
「バーコフの個別エルゴード定理 記述1」の続きです。
【記述2】
次に「測度可遷的」の意味を定義する。
「測度可遷的」とは、変換が、内の測度が0でも1でもないような点の任意の集合を不変にしない場合をいう。
これはなかなかおもしろい概念だと思いました。まずは有限集合で考えてみました。「測度が0でも1でもないような任意の集合」というのですが、有限集合の測度を要素の個数である、と考えてみます。(このように考えることがよいことなのかどうか私にはわかりません。) すると「測度が0の集合」というのは空集合、「測度が1の集合」
というのは全集合、ということになります。よって「内の測度が0でも1でもないような点の任意の集合を不変にしない」というのは、空集合でも全集合でもない集合の要素を変換で変換した時に、変換後の要素から成る集合が元の集合と等しくない、ということを意味していると考えられます。しかも変換は測度を不変にしますので、この場合は要素の個数を変えない、ということになります。このような変換を想像してみます。そこでは、内の任意の要素に変換を繰り返し行うと、内の全ての要素をたどって最後に元の要素に戻るような要素の系列が得られます。
例えば、という集合を考えます。この場合、「内の測度が0でも1でもないような点の任意の集合を不変にしない」変換としてはこのようなものが考えられます。
このような変換であれば、測度(要素の個数)を保存しますし、空集合でも全集合でもない集合の要素を変換した時に、変換後の要素から成る集合が元の集合と等しくないようになります。そして任意の要素、たとえば2に変換を次々にほどこしていくと、
- 2→3→4→5→1→2
となって、内の全ての要素を巡ったあとに自分に戻ってきます。では、必ずしも全ての要素を巡らないような変換は「測度可遷的」になるでしょうか? たとえば、
という変換ではどうでしょうか? この場合、集合はこの変換で自分自身に変換されてしまいます。集合も同様です。
これは、「空集合でも全集合でもない集合を不変にしない」という条件に反します。つまり「測度可遷的」ではありません。
それでは
という変換ではどうでしょうか? この場合、もし1から変換を次々に繰り返すと、この系列は2を通りません。しかし、この変換は測度(要素の数)を保存していないので保測変換という条件に反します。
このように、有限集合の場合は、内の任意の点がこの変換の繰り返しによって内の全ての要素を巡ることになります。そして変換の物理的意味が、時間あとの状態への変換でしたので、このことは、点は時間がたつにつれて内の全ての要素を通過する、ということになります。ここにボンヤリと、
- 時間平均=集合平均
が見えてきています。
「バーコフの個別エルゴード定理 記述2(その2)」に続きます。