バーコフの個別エルゴード定理 記述2(その2)

バーコフの個別エルゴード定理 記述2」では有限集合を取り上げて「測度可遷的」の意味を検討しました。しかし、これは本来、無限集合を対象とするものです。そこでは要素の数を測度とすることは問題があります。それに集合の要素の個数は無限ですから、変換を繰り返しても「E内の全ての要素をたどって最後に元の要素に戻る」ということはあり得ないでしょう。
例えば、集合EE=\{x|0{\le}x{\le}1,x{\in}\R\}と考えます。そしてこんな変換T_0を考えます。

  • x{\rightar}\frac{x}{2}

この変換はx=0の点以外の任意の点を不動にしません。x=0の点の測度は0ですから、測度が0でない任意の集合を不変にしないことが分かります。しかし、この変換を繰り返していっても「集合Eのあらゆる場所(の近傍)を通過する」とは言えません。例えば、最初x=0.8であるとして変換T_0を繰り返すと、

  • 0.8, 0.4, 0.2, 0.1, 0.05, 0.025・・・・・

となり、例えば点0.9の近くをこの系列は通りません。これでは

  • 時間平均=集合平均

にはなりそうにないです。この変換のどこがマズかったかというと、この変換T_0は測度を保存していないのでした。この場合の測度は(拡張された)長さです。E内の任意の線分を考え、その線分の中の点の全てに変換T_0をほどこすと、元の線分の1/2の長さの線分が出来ることは明らかです。つまり変換の前後で線の長さが保存されていませんので、これは保測変換ではなかったのです。


次に、[tex:0

  • x+a{\le}1ならば、x{\rightar}x+a
  • x+a>1ならば、x{\rightar}x+a-1

という変換T_1を考えます。これならば長さは保存されます。たとえば、a=0.1とします。線分[0.1,0.6]は長さ0.5ですが変換後は[0.2,0.7]ですのでやはり長さは0.5になります。線分[0.7,1]は長さ0.3ですが変換後は2つの線分[0,0.1]、[0.8,1]になります。両方の線分の長さの和は0.3になり、やはり長さは保存されます。
しかし、a=0.1では変換T_1は「測度可遷的」になりません。例えば、集合として
[0,0.05]、[0.1,0.15]、[0.2,0.25]、[0.3,0.35]、[0.4,0.45]、[0.5,0.55]、[0.6,0.65]、[0.7,0.75]、[0.8,0.85]、[0.9,0.95]、
の和集合を考えます。するとこの集合は上記の変換T_1で自分自身に変換されます。

この集合の測度は0.05×10=0.5であり、0ではありません。よって測度が0でも1でもない集合を不変にしているので「測度可遷的」ではありません。では、aがいくつであれば変換は「測度可遷的」になるのでしょうか?
バーコフの個別エルゴード定理 記述2(その3)」に続きます。