補足1:細かい描写

たとえば、話の本筋とはあまり関係のないところでの、プルーストのこのような細かい描写。

 しかし、さらにその先に行くと、流はゆるやかになり、ある人の所有地のなかをつらぬいているが、その地所の出入を一般にゆるしていた所有者は、かねてから水草園芸の仕事をたのしみにしていた人で、ヴィヴォーヌ川がつくるいくつかの小さな池のなかに、文字通りの睡蓮の花園を出現させていた。そのあたりは川岸に木々が非常によくしげっていて、高い木陰のために水はいつも暗いみどりの地色をたたえていたが、荒模様の午後の空がおさまった静かな夕方に帰ってくるときなどは、その地色が、七宝と見まがう、日本趣味の、むらさきがかったライト・ブルーを、なまなましくきわだたせているのが私の目についた。水面のあちらこちらに、芯が真赤でふちが白い睡蓮の花が、いちごのように赤らんでいた。さらにその先に行くと、だんだん花は数を増し、目立って色がうすいもの、もっとつやがないもの、一段ときめが粗いもの、さらに襞が深いもの、また偶然優雅な渦巻型をしたのが、なまめかしい饗宴(うたげ)の花をむしりとってほどけた花輪にモス・ローズの花だけを残した悲しい姿を見るように、流のまにまにただよっているものなどがあった。他の場所では、一隅がありふれた普通の種類の睡蓮にとってあるように思われ、それらはきれい好きな主婦の手で現れた磁器のような、ロケット=フラワーの清潔な白とピンクの色あいを見せていた、一方もうすこし先に行くと、文字通りの浮かぶ花壇となって、おしあうように密生し、まるであちこちの庭のパンジーが、蝶のように、その青味をおびた、つやのある羽を、この水上の花畑の透明な斜面に休めにきていたかのようであった、・・・・

第一部 コンブレー