補足2:未完の「失われた時を求めて」

・・・・プルーストが他界した1922年までに出版されたのは、全体の3分の2までにすぎなかった。残りの3分の1は死後になって、弟ロベールらがおおむね出来上がっていた遺稿を整理して刊行したものである。仮にもしあと数年の命が残されていたら、作品は無事に完成しただろうか。それはきわめて疑わしい。生き続ける限り彼はやはりすべてを書きこもうとして、終わることのない加筆を行ったに違いないからだ。だが量的にも質的にも、すべてを書くのは不可能である。したがって『失われた時を求めて』は、あらかじめ未完に終わるべく運命づけられた小説だった。こうしてプルーストの一生は、この「唯一の書物」を目指しながら、業半ばにして中断されたのである。