ヒュパティア

ヒュパティアのことを書きたいと以前書いたが、その時は、ヒュパティアとともにアレクサンドリア大図書館が滅んだのだと思い込んでいた。ところが調べてみるとそうではなく、大図書館ははるか400年以上前、カエサルアレクサンドリアに滞在している時に火災で壊滅していた。そしてそれを引き継いだ「娘」、すなわち姉妹図書館もヒュパティアが若い頃の391年にキリスト教徒の暴徒によって破壊されていた。


それにヒュパティアについて私が知っていることはごくわずかだ。

この本に書いてあることが私の知っているほとんどのことなので、別に私が文章をひねり出さなくても、それを引用すればこと足りてしまう。そんな引用だけになってしまってもここに書くべきなのか・・・・。なぜ私はヒュパティアのことを書きたいのか? 聡明な女性にあこがれるからか? 爛熟した文化の雰囲気が好きだからか? それとも彼女が新プラトン主義者だからか?


30 アレクサンドリア学派の最後を飾る悲運の思想家ヒュパティア


 キリスト教徒の群集によって虐殺されたこの女性は一体どのような人物だったのか? 当時を代表する哲学者、一流の数学者・天文学者、古代世界における最も偉大な女性知識人ヒュパティアは、アレクサンドリア文化を体現する人物の一人だった。容姿も魅惑的な彼女は、伝説化されるに相応しい天禀の持ち主だった。それにしても、彼女の悲劇的な最後には言葉を失う。運命の仕打ちはあまりにも無慈悲であった。
 370年にアレクサンドリアに生れたヒュパティアは、先にも見たように4世紀における科学界の大黒柱テオンの娘であった。この都市の学問センターの深遠な雰囲気につつまれた環境の中で育まれて、最高の教育を施された。とりわけ数学・天文学は、父親テオンから厳しい指導を受けた。

 30歳になる頃には、誰もが認める新プラトン学派のリーダーになっていた。キリスト教徒も異教徒も共に等しく鼓舞する彼女の講義は大いにもてはやされ、アレクサンドリアの知識人たちの間でも一目置かれる存在となった。

・・・彼女を憎悪する徒党の筆頭にいたのが、あのキュリロスである。この男が412年にアレクサンドリア教会の最高責任者の地位に就いたのは、ヒュパティアにとって真に不運なことであった。
 ・・・司教キュリロスは完璧な正統なキリスト教徒でない人間には憎悪しかもてず、正統派教義に従わない人々への迫害に限りない熱意を燃やした。

 アレクサンドリアの聖省長官オレステスはキュリロスに敵意を抱いていたが、彼もヒュパティアの賛美者だった。

 このいがみ合いの山場は415年の四旬節の間に訪れた。怒りに我を忘れたキュリロスが、暴徒化したキリスト教徒の一団にヒュパティアを襲撃するように嗾けた。
 この頃にはキリスト教の教会になっていたカエサルの霊廟の前をヒュパティアが通りかかった時に悲劇は起こった。暴漢どもは担い駕籠から彼女を引き摺り下ろして素裸にし、鋭利な貝殻で彼女の体を切り裂いて燃やした。


以上全て「知識の灯台――古代アレクサンドリア図書館の物語」よりの引用


岡野玲子の漫画「陰陽師」の第12巻

ヒュパティアが魅力的に描かれている。そこで作者は、オレステスアレクサンドリアからの脱出を勧めている場面でヒュパティアにこう語らせている。

だけどこれは簡単なことです。
このアレクサンドリアの未来に私が必要ならば
私は存在する。
それだけのことなのです

彼女の信念からすれば、それはそうなのだ。だが、もう未来は彼女を必要としていない。理性が信仰に席を譲らなければならない時代がやってきた。だが、なぜ不要なのか? この知恵の体系はこんなにも美しいのに・・・・。


やはり、新プラトン主義が気になる。今度、図書館からプロティノスを借りてこよう。