生産ラインの制御政策

生産ラインの最適制御――大野 勝久」からの抜粋です。

2.生産ラインの制御政策


 多品種を生産する多工程生産ラインにおける制御政策としては、様々なものが論じられてきた。まず初めに、単一品種多工程生産ラインにおける制御政策あるいは管理方式をBuzacott and Shanthikumar [*1, pp.498-504]に従い、以下網羅的に紹介し、若干の説明を付け加える。


2.1 制御・管理方式

  • (1)受注生産方式 (produce-to-order system)
    • 注文を受けてから必要な生産活動に入る生産ラインであり、製番管理方式、部品中心生産システム、生産座席システムなど、納期と生産期間の関係で種々の管理方式が行われている。しかし最も単純なものは、受注を受けるごとに、必要な原材料は調達されたものとして先頭工程へ生産指示をだすものであり、通常の直列待ち行列あるいは待ち行列ネットワークとして定式化される。
  • (2)基点在庫方式 (base stock system)
    • この方式は、在庫管理におけるClark and Scarf [*2]によるエシュロン在庫(echelon stock)の考え方に基づき、在庫管理では文献[3]などで古くから知られている。ここでエシュロン在庫とは、その工程を含めて下流すべてに存在する在庫量の和である。基点在庫方式は、あらかじめ各工程の基準在庫量を定めておき、その工程のエシェロン在庫位置(エシェロン在庫+発注残)がその基準在庫量を下まわれば、基準在庫量まで生産する方式である。したがって、初期状態における各工程のエシェロン在庫位置を基準在庫量に設定しておけば、需要により最終製品が引きとられるごとに、全工程へ同時に生産指示が出される。
  • (3)MRP (material requirements planning)
    • MRP(資材所要量計画)は、1960年代から米国で開発されてきた生産管理方式である。対象となる品目を独立需要品目と従属需要品目に区分し、生産活動のすべてをタイム・バケット(time bucket)と呼ばれる時間区間に対して計画し、そのタイム・バケット内に行われるように管理する。各タイム・バケットで生産すべき独立需要品目の生産量を与える基準生産計画と部品表に基づいて、必要となる部品量を計算し、各品目の使用可能在庫量からその発注・生産指示を与える。
  • (5)局所制御 (local control)
    • 各工程は、使用する部品と機械が利用でき、その工程の製品置き場が一杯でない限り、他の工程とは独立に生産を続ける。かんばん方式同様、自律的である。
  • (6)有限バッファライン (multi-stage finite buffer system)
    • 各工程は、工程間に生産した製品を置く有限のバッファを持ち、生産を完了したときにそのバッファが一杯であれば、生産した機械はその製品を保持してバッファが空くまでブロック(block)される。各工程の直前のバッファが、前工程の製品を保持するものとすれば、通常の多工程フローラインである。
  • (7)共有バッファライン (series system with shared buffer space)
    • 各工程のバッファは、多工程フローライン同様その工程で使用する製品(前工程の製品である)を保持するが、生産した製品を置く後工程のバッファが一杯なときに限り、製品も保持出来ると仮定した多工程フローラインである。「かんばん方式の数理」における(a,b,k)システムであり、かんばん方式の一般化になっている。
  • (8)全体制御 (integral control)
    • ライン全体の状態に依存した最適制御が相当する所であるが、文献[*3]では基点在庫方式同様、後工程すべての在庫量に依存して生産指示が出される方式とされている。
  • (9)OPT (optimized production technology)
    • OPTは、イスラエルの物理学者Goldratt博士によって1970年代後半から開発されてきた生産スケジューリングソフトである。OPTは、固有の評価指標であるスループット(=売り上げ−資材費)の向上とリードタイムの短縮、最適在庫水準の維持等の目標を達成するための最善策を、ボトルネック工程に着目して計画するソフトである。OPTでは具体的な最適化手法は公開されていなかったが、その発展形TOC(theory of constraints:制約条件の理論)で明らかにされたボトルネック工程を最大限に活用するスケジューリング手法が、DBR(drum, buffer, rope)である。ここで、ドラムはボトルネック工程の生産に全工程が同期すること、バッファはボトルネック工程が仕掛品不足で止まらないように在庫を持つこと、ロープは先頭工程が進みすぎないようにボトルネック工程の生産に同期して原材料を投入することを意味している。
  • (10)CONWIP
    • Spearman, Woodruff and Hopp [*4]によりかんばん方式の代替として提案されたプル方式であり、生産ライン内における総WIP(work in process、仕掛品)を常に一定(CONstant)に保持する方式である。したがって、最終製品が顧客に引き取られるごとに先頭工程に生産指示が出され、後は工程順に加工される。


(4)(5)が(3)かんばん方式とどこが違うのかよく分からないが、それを除けばよく整理されていると思いました。(9)のOPTは今ではTOCとして有名ですね。「J.A. Buzacott and I.G. Shantikumar, Stochastic Models of Manufacturing Systems」はきっと読んだほうがいいんでしょうね・・・・。

*1:J.A. Buzacott and I.G. Shantikumar, Stochastic Models of Manufacturing Systems, Prentice Hall, NJ, 1993.

*2:A.J. Clark and H. Scarf, "Optimal policies for multi-echelon inventory problem", Management Science, Vol.6, pp.475-490, 1960.

*3:J.A. Buzacott and I.G. Shantikumar, Stochastic Models of Manufacturing Systems, Prentice Hall, NJ, 1993.

*4:M.L. pearman, D.L. Woodruff and W.J. Hopp, "CONWIP:A pull alternative to Kanban", International Journal of Production Research, Vol.28, No.5, pp.879-894, 1990