待ち時間制約(3)

待ち時間制約(2)」の式(7)

  • F_q(t)=1-u\exp\left(-\frac{(1-u)t}{t_e}\right)・・・・(7)

を用いて、例題を想定し、それを解いてみましょう。式(7)をグラフにしたものを以下に示します。

横軸にはtの代わりにt/t_eを採りました。つまり、処理時間の何倍かを示す数字です。縦軸は累積確率です。このグラフは装置の稼働率が90%の時、つまりu=0.9の時の累積確率の様子を示しています。
例えば装置の処理時間が30分だとしましょう。そしてこの装置での制限待ち時間が6時間であるとしましょう。そうするとt/t_e=6/0.5=12となります。この時の累積確率F_q(12t_e)は式(7)で計算すると

  • F_q(12t_e)=0.73

となります。つまり73%のジョブは6時間の制限待ち時間を守ることが出来るが残りの27%は守ることが出来ない、という結果になります。27%の装置スループットのロスがあることになります。もし、処理プロセス上の工夫によってこの制限待ち時間を6時間から12時間に伸ばすことが出来たら、工場運用上はどれだけのメリットがあるでしょうか? 制限待ち時間が12時間になるとt/t_e=24になります。そこでF_q(24t_e)を式(7)で計算すると

  • F_q(24t_e)=0.92

となります。つまり92%のジョブが制限待ち時間を守ることが出来るようになるので、6時間の場合に比べて19%の効率アップになります。



以上の考察については、いろいろ異論が出ると思います。私が想像するに以下のような異論があることでしょう。

  • M/M/1モデルでは装置の処理時間が指数分布であるが、実際の装置の場合、処理時間一定としたほうがより現実に近いのではないか? そうでないにしても現実はM/M/1とM/D/1の中間にあるのではないか? そうであるならば、M/M/1モデルにおける待ち時間の累積確率分布だけでなくM/D/1モデルにおける待ち時間の累積確率分布も欲しい。
  • M/M/1モデルでは装置は1台だか、装置が2台以上ある場合もあるのではないか? それを考慮するとM/M/sモデルにおける待ち時間の累積確率分布も欲しい。上述の異論を考慮すれば、M/D/sモデルにおける待ち時間の累積確率分布も欲しい。
  • M/M/1モデルでは装置へのジョブの到着の仕方がポアソン過程になっているが、2工程間の待ち時間を今、問題にしているのであるから到着の仕方は前工程の装置群によって決まるのではないか? その場合、到着の仕方はポアソン過程とは限らないのではないか?
    • そうすると結局GI/G/sの場合の待ち時間の累積確率分布を要求することになり、手に負えなくなりそうです。
  • 待ち時間がオーバーしたジョブはその装置で処理するのは無駄になるので、その装置では処理しないのではないか? しかし上述のモデルでは待ち時間がオーバーしたジョブも処理していることになっているので現実とかけ離れた結果になっていないか?
  • 現実には待ち時間制限を守るように前工程でジョブの処理開始のタイミングを調整するのではないか? モデルにそのようなことを取り込むべきではないか?


以上とまとめると課題は以下のようになると思います。

  • M/M/1より一般的な待ち行列について待ち時間の累積確率分布を求めること。どこまで一般的な待ち行列について求めることが出来るか?
  • 待ち時間制限オーバーしたジョブの扱いをより現実に近いものにすること。
  • 待ち時間制限を守るための流れの制御方法を考察し、それをモデルに取り込むこと。


まずは、簡単そうな最初の課題から検討します。その中でも最初はM/M/1での結果(式(7))をM/M/sに拡張することから検討していきます。