エレベータのダンゴ運転

以下は高橋幸雄氏(東京工業大学大学院情報理工学研究科教授)の「やさしい待ち行列(2) : 等間隔運転は待ちを減らす」からの引用です。
なお高橋氏には、

という名著があります。

4.エレベータのダンゴ運転

 状況は少し違いますが、高層ビルのエレベータの運行にも、このような混雑と遅れのフィードバックがあります。何台かの(たとえば4台の)エレベータが組になって、上下に行ったりきたりして、お客さんを各階に運んでいるものとしましょう。
 ここでは簡単のため、どのエレベータも最下階から最上階まで上行し、また最下階まで降りていくものとします。つまり途中で向きを変えて引き返すということはしないことにするのです。こうすると、各エレベータは図5のように円運動をしていると考えることができ、見通しがよくなります。必要ならば同じ階の上りから下りにはグルッとまわって時間ゼロで移動できるとすれば、途中での引き返しも扱うことができるでしょう。

    • 図5:円運動するエレベータ

 もし各エレベータが追い越しをしないことにすると、このエレベータの動きは山手線とそっくりです。

この「山手線」の話はこの引用の前にあった話です。しかし「追い越しをしない」というのはエレベータにとっては不自然な仮定だと思います。

どんな配置から出発してもしばらくするとかならずダンゴ運転になることは容易に想像できます。

どうして「山手線」では「かならずダンゴ運転になる」のか、興味があります。そこで、前のほうを見てみると、以下のところで理由を述べているようです。

3.電車は混むと遅れる
 これまで、バスや電車が等間隔で到着しないと客はより長く待たされることをみましたが、じつはそれが原因となって混雑と遅れの正のフィードバックが出現することがあります。

電車の遅れと混雑
 たとえば東京の山手線や大阪の環状線を思い浮かべてください。電車が混み出すと、乗客の乗り降りによけいに時間がかかるようになります。すると電車はすこし遅れ気味になって、前の電車との間隔が少しだけ長くなります。するとつぎの駅で乗ってくるお客の数がそれだけ多くなり、これがさらなる遅れの原因になります。これを繰り返しているうちに、混雑による遅れは雪だるま式にふくれあがってしまいます。

これは山手線のように電車(エレベータ)が追い越しが出来ない場合には、なるほど、と思うのですが、エレベータの場合は追い越しが出来るので、あるエレベータの出発が遅れたとしても別のエレベータがやってきてお客を乗せるので、この理由は成り立たないように思います。


 じつは、たとえ追い越しを認めたとしても、客の要求にすべて反応しようとすると、じきにダンゴ運転が始まってしまいます。前のエレベータとの間隔があくと途中で待っている客が多くなり、電車と同様の理由でその間隔はどんどん開いていってしまうのです。最近、エレベータを自動運転しているデパートがありますが、こういうところではダンゴ運転がよく見られます。

「最近」と言っても、この記事は1995年12月の記事です。先ほど述べた理由により、私はまだ、エレベータでのダンゴ運転発生の理由がよく分からないのですが、「客の要求にすべて反応しようとすると」というところがキーなのかもしれません。しかし、それについて説明が書かれていないのが残念です。

みなさんもぜひシミュレーションで確かめてみてください。では、

  • 「クイズ5」
    • エレベータのダンゴ運転を避けるにはどのようなオペレーションをしたらよいでしょう。


 電車と比べて、エレベータの場合には次のような特徴があります。まず、エレベータでは、動いている状態から停まって扉を開閉して客を乗降させ、再びスタートするのにその運行時間の大部分を消費して、階の移動や通過にはほとんど時間がかかりません。60階ものビルの1階から最上階まで40秒足らずで到達できてしまうのですから、本来のスピードはたいへん速いのです。また、電車と違ってレールに相当する縦穴がエレベータごとに確保されています。ですから追い越しや通過も自由にできます。エレベータの定員が少ないことも特徴の一つです。降りる客がいなければ途中の階を通過することも可能です。
 このように、エレベータは個々の動きの自由度が大きいので、この自由度を最大限に利用すればダンゴ運転を避けて効率的に運用することができるはずです。ポイントは、待ち行列の感覚でいえばサービス率を上げること、つまり余計なところには停まらず、目的階までなるべく早く到達することです。

「サービス率」という待ち行列理論の用語が出てきてしまいました。「サービス率を上げる」ということは「処理時間を短くする」ことだと考えて下さい。

これにはある階で待っている客がいたら、その客を拾うエレベータを決め、他のエレベータはそこにはなるべく停まらないように仕組むのです。つまり積極的に通過させるのです。こうすればダンゴ運転にもならず、一定の時間でさばくことのできる客の数を大幅に増やすことができます。
 昔のエレベータでは(あるいは今でも台数が少ないエレベータでは)、待っている客にどのエレベータが何階にいるかはっきりとわかるようになっていました。ところが最近のエレベータでは、エレベータが到着する少し前にそこのランプが点灯して客に予告するだけで、待っている客にはどのエレベータが何階にいるかいっさいわからないようになっています。これは、せっかく待っているのに目の前を通過されてしまった客を怒らせないための配慮なのだそうです。なるほど、プロはいろいろ考えるものですね。


さて、id:kob_ssさんのコメントhttp://d.hatena.ne.jp/CUSCUS/20090105#c1231160707

関係ある事なのか無いのかさえ分からないですが、よくデパートのエレベータ(自動運転)で、3基あるとすれば、その3基ともほとんど同じ階を行ったり来たりしてますよね?あれ、待ってる方は結構いらいらするんですが、なんとかならないんでしょうか?それともワザと改良しないの?それともすごく難しい事なんですか?

への答になりそうな文章が以下の文章です。

 実際のエレベータは大変複雑な管理プログラムによって制御されていて、ダンゴ運転が起きないように、さらには客の待ち時間が大きくならないように工夫されています。エキスパートシステムなどを取り入れていろいろな制御ルールを考え、その効果をシミュレーションで確かめながら管理プログラムを開発しているそうです。

これが本当だとすれば、「3基ともほとんど同じ階を行ったり来たりして」いらいらさせられる現象は解決可能、ということなのですが、私の実感ではそんなに改善されているのかなあ、と思ってしまいます。あるいは、エレベータが今、どの階にいるのが表示されるようなタイプのエレベータでは階を通過させようにも(客が見ているので)通過させられないので、改善が難しいのかもしれません。