これも昨日紹介した1974年の「アステカ文明展」の解説書に書かれていた話です。
16世紀に記録されたひとつの伝承は、次のような物語りを伝えている。
アステカ王のモクテスマI世(在位1440〜68年)は、じぶんたちの祖先が出たという伝説上の土地アストランの位置をつきとめようとして、60人の呪術師たちにたくさんの豪華な贈り物を持たせ、出発させた。一同がウィツィロポチトリという、アステカの主神の誕生の地といわれるところまで行くと、ひとりの悪魔があらわれて、彼らを鳥や野獣に変えた。鳥になった者たちは、空を飛んで目的地に着いた。そして、ふたたび人間のすがたに戻って、そこに住む人々が、じぶんたちと同じことばを話すことを知った。一同は、ひとりの大へんな老人のところへ連れて行かれ、その老人の口から、ウィツィロポチトリ神の母のところに案内する、という約束を得た。けわしい路に呪術師たちはあえいだ。あるときは流砂に呑みこまれそうになったが、老人が小指で救い上げてくれた。老人は文明化するとともにすっかり惰弱になってしまったアステカ人たちを叱った。着いてみると、ウィツィロポチトリの母親は、醜い老婆だった。呪術師たちは贈り物を差し出し、今日のアステカ王国の繁栄を誇り高く物語った。老婆はぜんぜんそれには関心を示さず、
「わたしは貧しくみじめだ。アステカ族は、いつの日か、彼らがほろぼした他の部族同様、破滅の道を歩むだろう」
と予言した。
なんとも陰鬱な話です。ひょっとしたらこの伝承はアステカが征服されてしまってから、あとづけの理由として出来たのかもしれません。
ところでウィツィロポチトリ神の母親は名前をコアトリクエというのですが、その意味は蛇(コアトル)のスカート(クエ)という不気味なものです。そのコアトリクエの石像が今でも残っており、なんともすごい姿です。
36年前「アステカ文明展」で初めてこれを見た時の衝撃は今でも忘れられません。先日見てきた「ポンペイ展」ではこれほど現代文明と遠く離れた文物を見ることはありませんでした。そういう意味で古代ローマはすごく現代的でした。