再生過程の重ね合わせの変動係数の計算について

Manufacturing Systems Modeling and Analysis

では再生過程を重ね合わせた過程の到着間隔の変動係数の計算をQNAより簡単な方法で行っています。理由はQNAが提案する方法では計算が複雑だから、ということです。もちろんManufacturing Systems Modeling and Analysisでも、この簡略化した方法はより精度が落ちることは認めています。どんな時にこの簡略化が正当化出来るか、ちょっと検討してみました。


まず、重ね合わせを構成するn個の再生過程の各々に1からnまでの番号を振り、i番の再生過程の到着レートを\lambda_i、変動係数をc_iで表します。重ね合わせた過程の到着レートを\lambda_a、変動係数をc_aで表します。そうすると近似でも何でもなくて、明らかに

  • \lambda_a=\Bigsum_{i=1}^n\lambda_i

です。
乗変動係数c_a^2についてはManufacturing Systems Modeling and Analysisでは

  • c_a^2=\Bigsum_{i=1}^n\frac{\lambda_i}{\lambda_a}c_i^2・・・・(1)

で計算することを提案しています。つまり個々の再生過程の変動係数の到着レートによる加重平均として計算するものです。
ところがQNAで提案しているのはもっと複雑な式でして(「QNA読解:4.3 重ね合わせ(1)」「(2)」参照)

  • c_a^2=w\Bigsum_{i=1}^n\frac{\lambda_i}{\lambda_a}c_i^2+(1-w)・・・・(2)

ただし

  • w=\frac{1}{1+4(1-u)^2(v-1)}・・・・(3)
  • v=\frac{1}{\Bigsum_{i=1}^n\left(\frac{\lambda_i}{\lambda_a}\right)^2}・・・・(4)

です。ここでuはこの重ね合わされた到着過程を受け取るステーションの装置の稼働率です。再生過程の重ね合わせですから本来ならuは無関係なはずなのですが、Whitt教授のグループはいわば\Bigsum{GI_i}/G/s待ち行列の平均待ち時間を多数のシミュレーションで実施して、このような式を得たのでした。再生過程の重ね合わせは本当は再生過程ではないことに対する補正をここに見るべきなのでしょう*1
さて、一般に[tex:0

  • \lambda_i=\frac{\lambda_a}{n}

です。すると式(4)は以下のようになります。

  • v=\frac{1}{\Bigsum_{i=1}^n\left(\frac{1}{n}\right)^2}=\frac{1}{n\left(\frac{1}{n}\right)^2}=\frac{1}{\frac{1}{n}}=n

つまり、nが大きければvは大きくなります。ということは多数の再生過程の重ね合わせの場合vが大きくなるということです。vが大きくなればwは1より小さくなり、式(1)の結果は式(2)の結果から大きくはずれることになります。どういうふうにはずれるのでしょうか?
式(2)を見れば分かるようにc_a^2はより1に近づくことになります。つまりよりポアソン過程に近くなるわけです。このことは確かに正しいのですが、式(1)ではその考慮がなされていません。式(1)では、

  • c_a^2=\Bigsum_{i=1}^n\frac{\lambda_i}{\lambda_a}c_i^2=\Bigsum_{i=1}^n\frac{1}{n}c_i^2

となってc_a^2は各再生過程の二乗変動係数c_i^2の平均になります。特に全ての再生過程で変動係数が等しい場合、つまりc_i=cならば

  • c_a^2=c_i^2

つまり

  • c_a=c_i

になります。式(2)のようにnが大きくなった時にc_aが1に近づく、ということはありません。

*1:つまり「QNAに対する疑問」の疑念2への回答