エジプト神イシスとオシリスの伝説について

英雄伝」で有名な古代ローマのギリシヤ人プルタルコス先生ですが、著書は多岐に渡ります。

伝記と随想録(『倫理論集』)に大別されて今日に伝わる彼の作品だけでも現存西洋古典の中で量的にはキケロと並んで圧倒的に大きいが、今日散逸したものを加えるとその著作数は正に驚異的である。・・・真作は約二百五十篇くらいと推定されている。
 彼の著作の内容はすこぶる多岐にわたっている。伝記のほか随筆は通俗倫理、哲学、心理学、神学、宗教、自然科学、文学、修辞学の問題を扱っており・・・・


プルタルコス英雄伝(上)」村川健太郎編の村川健太郎による「解説 プルタルコスとその作品」より

それで著作の中にはこんな変わったものもあるのです。シャンポリオン古代エジプト象形文字を解読するまでは、古代エジプトの神話は、この本のようなギリシア人やローマ人による資料を通してしか知りようがなかったのです。そして、この本で扱っているいわゆる「オシリスとイシス」の神話は、まとまった形では古代エジプトの碑文や文書からは見つかっておらず、この神話の全体像を知るにはこの本が今もってよい資料をなっています。古代エジプトの神話に長年興味を持っていた私は以上の理由でこの本を買ったのでした。


しかーし。しかしですよ。これは紀元2世紀のギリシャ人が書いた本ですからね、随分、ギリシャ人の偏見が入っているんですね。たとえば

・・・と申しますのは、イシスというのはギリシャ語であり

  • それはないだろう。

イシスの敵のテュポンというのもそうで

  • だいたい古代エジプトでは「テュポン」と呼ばないぜ。「セト」と呼ぶんだぜ。

テュポン(Typhon)とは無知と欺瞞のために精神の正常さを失い(tetyphommenos)・・・

  • ギリシャ語で駄洒落を言われてもなあ・・・

といった感じで、突っ込みどころ満載です。
そして肝心の神話の叙述は短くて、この本にはその神話をどう解釈するかについてその何倍も費やして述べています。それが、また(何度も言いますが)紀元2世紀のギリシャ人の観点から書かれていますから、記述から古代エジプトに関する情報を取り出すのがなかなか大変なのです。


というわけで、この本は買ったはよいが、まだちゃんと読めていないのです。私にとってやっかいな本です。肝心のオシリスとイシスの話はおもしろい話ですから、いつか別にご紹介したいと思います。(ネット上にはすでにいっぱい載っていますが、私なりのやり方で物語ってみたいものです。)