「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(4)

上位エントリ:サイバネティックス
先行エントリ:「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(3)


エルゴード理論の概説が始まります。

 ふつうのエルゴード定理を述べるには、まず次のような性質をもつ集合Eのことから始めなければならない。すなわち、Eの測度は1とし、かつEは保測変換T、あるいは保測変換T^\lambdaの群によってEそれ自身に変換されるものとする。ただし、-\infty<\lambda<\infty、かつ

 (2.14)   T^\lambda{\times}T^\mu=T^{\lambda+\mu}

とする。
 エルゴード理論では、E上で定義された複素数函数f(x)を考える。どの場合にもf(x)xに関し可測であるとし、また変換の連続群\{T^{\lambda}\}を扱う場合には、f(T^{\lambda}x)x\lambdaについて同時に可測であるとする。


このエントリでは連続的な変換群T^\lambdaについては検討しないことにします。以下、その部分を飛ばして引用します。また、この本には

の両方が示されていますが、バーコフの個別エルゴード定理だけを取り上げることにします。


さて、集合Eについては、あとで
\Bigint_0^1f(x)dx
と出てくるので、これは0から1までの区間と考えればよいと思います。保測変換とは測度を保存する変換です。測度という言葉は、長さや面積、体積、のような大きさを表す概念を抽象化したものですが、ここでは確率と同等と考えてよいでしょう。
時刻0でx(0)にあった点が時刻tの時にx(t)移動しているとしましょう。上の引用では限定していませんがエルゴード理論を統計力学の文脈で解釈するならば、変換Tx(0)x(t)に対応付ける変換です。すると

  • Tx(0)=x(t)

と書くことが出来ます。すると

  • T^2x(0)=T(Tx(0))=T(x(t))

となりますが、これは時刻0の時にx(t)の位置にあった点がt後に存在する位置を表しているので

  • T^2x(0)=T(Tx(0))=T(x(t))=x(t+t)=x(2t)

となります。同様に

  • T^3x(0)=x(3t)
  • T^4x(0)=x(4t)

・・・・・・・・

  • T^nx(0)=x(nt)

となります。

 (2.16)   f_N(x)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)

”ほとんどいたるところで”の収束を保証するバーコフのエルゴード定理では、f(x)Lに属する場合、すなわち

 (2.20)  \Bigint_E|f(x)|dx<\infty

である場合を扱う。
 函数f_N(x)・・・・・は(2.16)・・・・におけるように定義される。
 するとこの定理の主張するところは、測度0であるようなxの集合を除いては

 (2.21)  f^*(x)=\lim_{N\rightar\infty}f_N(x)

・・・・・・
が存在するということである。

数学の用語としての「ほとんどいたるところで」という言葉の意味は「確率1で」ということです。また、これは「測度1で」ということと同じです。「測度0であるようなxの集合を除いて」というのも「測度1で」「確率1で」「ほとんどいたるところで」と同じ意味になります。


さて

  • T^nx(0)=x(nt)

ですから(2.16)の

  • f_N(x)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)

というのは

  • f_N(x)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(T^nx)=\frac{1}{N+1}\Bigsum_{n=0}^Nf(x(nt))

となり、(2.21)の

  • f^*(x)=\lim_{N\rightar\infty}f_N(x)

は、時間t間隔で測定したf(x)の値の(無限)時間平均を表しています。バーコフの定理は測度0であるようなxの集合を除いては上記f^*(x)が存在することを主張しています。


さて、バーコフのエルゴード定理の証明はとても私の手に負えるしろものではありませんので、証明は示さないままにしておきます。ここでの主題は、この定理を利用して

  • 集合平均=時間平均

が言える、ということです。


「サイバネティックス」という本の「第2章 群と統計力学」(5)」に続きます。