ドッペルゲンガー

今まで一度だけ、自分にそっくりな人を見たことがある。まだ独身の頃で20代だ。場所は新宿の交差点。向こうから歩いてくるのが見えた。一瞬、鏡かな、と思ったが、すぐに違うことが分かった。自分にそっくりな人を見た時は、自分に似た人を見た時とは違う感覚を受けるのだ、とその時分かった。とにかく異様な感に打たれる。私の分身は人ごみのなかから現れて、また、人ごみのなかに消えていった。向こうは別に私に気づいていないようだった。私は彼の後姿を見ながら、何で着ている服まで似ているんだろう、と思った。その時はそれだけ。


ドッペルゲンガーではないが、ちょっと似たできごと。
数年前、東京に出張してホテルに宿泊して翌朝、チェックアウトした時のこと。料金の清算をしているカウンタの女性が「えっ、ダブルブッキング?」とひとりごと。「えっ、なにこれっ?」 しばらくして分かったのが、私とほぼ同時にチェックアウトのために鍵を出した人が私と同姓同名、漢字までいっしょだった、ということ。私の姓も名もありふれたものなので、今まで同姓同名の人は何人が知っているが、その人とほぼ同時に偶然何かをする、といったことはこの時だけだった。私は非常に驚いてその人に話しかけたのだが、その人は別に何でもない、という様子で去っていってしまった。