ブラウン運動――1.ランダムウォーク

これからブラウン運動の数学的モデルについて説明します。


1.ランダムウォーク
ブラウン運動ランダムウォークの極限として得られます。そこで最初はランダムウォークの簡単な説明から致します。


ランダムウォークは1回ごとに次にどちらに進むのかを確率的に決めるような過程です。ここでは一般的なランダムウォークではなく、特殊な1つの例について説明します。
ある人がX軸上を動くものとします。時刻0にはX軸の原点にその人はいるとします。ここで1回、コインを投げて、裏か表かでどちらに移動するかを決めます。表ならば+1、裏ならば−1、だけX軸上を動くとします。つまりそれぞれ1/2の確率で+1または−1だけ移動するとします。動き終わったら、またコインを投げて同じように動く方向を決めます。これを繰り返していくと、この人は不規則に動くことになります。コインをk回目に投げた結果その人が動き終って今いる位置(X座標)をxで表し、kを横軸、xを縦軸にとったものが、ランダムウォークのグラフになります。たとえばそれは下図のようなグラフになります。

  • 図1


コインを1回投げた結果どれだけ動くか(つまり+1か−1か)を示す確率変数をXで表すことにします。Xの平均E[X]と分散\rm{Var}[x]を考えてみます。まず明らかに

  • E[X]=0・・・・(1)

です。分散は

  • \rm{Var}[X]=\frac{1}{2}\times\left[(1-0)^2+(-1-0)^2\right]

よって

  • \rm{Var}[X]=1・・・・(2)

です。次に、k回目の移動後の位置をX(k)で表すことにします。X(k)も確率変数になります。X(k)の平均E[X(k)]と分散\rm{Var}[X(k)]を考えて見ます。X(k)Xk回足したものと考えられますから、独立で同一確率分布に従う確率変数の和の平均と分散の公式により

  • E[X(k)]=kE[x]=k\times{0}=0

よって

  • E[X(k)]=0・・・・(3)

また

  • \rm{Var}[X(k)]=k\rm{Var}[X]=k\times{1}-k

よって

  • \rm{Var}[X(k)]・・・・(4)

となります。式(4)からX(k)標準偏差\rm{STD}[X(k)]

  • \rm{STD}[X(k)]=\sqrt{k}・・・・(5)

となります。つまり、kが増えるにつれて標準偏差はどんどん大きくなります。


X(k)の値がxである確率をf(x,k)で表すことにします。今、X(k+1)=xであったとします。これはkの時にX(k)=x-1で1/2の確率で+1進んだ場合と、kの時にX(k)=x+1で1/2の確率で−1進んだ場合、の両方の場合の結果として考えられます。よって

  • f(x,k+1)=f(x-1,k)\times\frac{1}{2}+f(x+1,k)\times\frac{1}{2}

つまり

  • f(x,k+1)=\frac{f(x-1,k)+f(x+1,k)}{2}・・・・(6)

Excelにこの式を入れて、f(x,k)を実際に求めてみました。その一部を下に示します。

  • 図2


この表から、kが増えるにつれて標準偏差がどんどん大きくなる様子が分かります。(これは二項分布そのものです。)