エーゲ海のある都市の物語:ハリカルナッソス(8):アルテミシア(2)

さて右の全部隊がアテナイ地区に達したとき(中略)クセルクセスは水軍の将士たちと接触しその意見を知りたく思い、自ら船団を訪ねた。クセルクセスが到着して最上席に坐ると、船団からは召しに応じて各国の独裁者と部隊長が参集し、王の定めた序列に従って…

エーゲ海のある都市の物語:ハリカルナッソス(7):アルテミシア(1)

BC 499年のイオニアの反乱にハリカルナッソスは参加していなかったようです。ヘロドトスの記述にはハリカルナッソスだけでなく、近隣のドーリス人の町の名前すら登場しません。ただ近隣のカリア人は反乱に参加し、一度はペルシア軍を殲滅しています。それで…

エーゲ海のある都市の物語:ハリカルナッソス(6):エジプトの傭兵としてのギリシア人

ハリカルナッソス人がエジプトに行って傭兵になるようなことが始まったのはいつなのでしょうか? これについて答を見つけられませんでしたが、近くのロドス島の住民はすでにプサンメティコス2世の時代(BC 595-589)に傭兵としてエジプトに行っていたようで…

エーゲ海のある都市の物語:ハリカルナッソス(5):傭兵隊長パネス

ペルシアの2代目の王カンビュセスの治世の頃の話です。当時、カンビュセスはエジプト征服を企んでいましたが、当時のエジプト王はアマシスでした。 さて、アマシスは、ギリシア人とカリア人を傭兵として重用していました。エジプトがギリシア人とカリア人を…

エーゲ海のある都市の物語:ハリカルナッソス(4):リュディアとペルシアへの服属

ハリカルナッソスの初めの400年ぐらいの歴史は皆目分かりません。どんな王が君臨していたのか、レラントス戦争には参加したのか、政治体制はどう変わっていったのか、キンメリア人の侵攻を受けたのか、ネットを調べても本を読んでも分かりませんでした。そこ…

エーゲ海のある都市の物語:ハリカルナッソス(3):カリア人

ハリカルナッソスではギリシア人だけでなくカリア人の社会もあるのでした。これはその町の成り立ちに原因があるかもしれません。 ハリカルナッソスの建設はミュティレネの成り立ちに似ていて、最初は本土にほど近い小島をギリシア人が占拠します。この島はゼ…

エーゲ海のある都市の物語:ハリカルナッソス(2):ハリカルナッソスの建設

ハリカルナッソスの起源について英語版のWikipediaは以下のように書いています。 ハリカルナッソスの建設はさまざまな伝承の間で議論されているが、それらは、ハリカルナッソスがドーリア人の植民市であるという主要な点については意見が一致しており、その…

エーゲ海のある都市の物語:ハリカルナッソス(1):ドーリス人の植民

古代、エーゲ海に拡がっていったギリシア人は北から南へ順に、アイオリス人、イオニア人、ドーリス人、の3つの種族に分かれていました。これまでイオニア人の都市ミレトスとアイオリス人の都市ミュティレネの物語を書いてきたので、今度はエーゲ海のギリシ…

アイオリス人の植民

「エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(3):アイオリス人の到来」を書く前に見ておけばよかったという記事を英語版のWikipediaの「First Greek colonisation(第一次ギリシア人植民)」の記事の中に見つけました。以下はその拙訳です。 アイオリス人…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(23):最終回

アレクサンドロス大王が後継者を指名せずに若くして亡くなると、大王の部下たちが自分こそはアレクサンドロスの後継者と名乗って争い、大王の帝国は分裂し互いに侵攻を繰り返す、いわゆるヘレニズム時代になるのですが、その間にミュティレネがどの国の支配…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(22):アリストテレスとテオプラストス(2)

さて、アリストテレスとテオプラストスがミュティレネにやってきた経緯はといいますと・・・・まず、BC 347年に師のプラトンが死去します。するとアリストテレスはアカデメイアを飛び出し、アテナイ市内からも飛び出して、小アジアにあるアッソスへ移住して…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(21):アリストテレスとテオプラストス(1)

BC 427年のミュティレネの降伏ののち、もうそのあとには、ミュティレネが中心となるような事柄は起らなかったようです。それでもミュティレネは背景としてはまだ歴史に登場します。さて話はミュティレネの降伏から82年後のBC 345年まで下ります。その年、2…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(20):ミュティレネの反乱(3)

反乱勃発の翌年BC 427年の夏、スパルタはアルキダス率いる40隻の艦隊をミュティレネへと送り、それと並行してアッティカ*1に侵攻し、その地を荒らし回りました。しかしこのミュティレネへ向う艦隊は、途中の航路で難渋してしまい、時機を逸してしまいました…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(19):ミュティレネの反乱(2)

この動きに対し、最初アテナイは何とか外交交渉によってデロス同盟離脱を思いとどまらせようとしました。というのは、現在アテナイはスパルタと戦争中であり、さらに悪いことには一昨年より疫病がアテナイ市内を襲っていたため、軍事行動の余力がないと考え…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(18):ミュティレネの反乱(1)

BC 479年のミュカレの戦いはペルシアによるギリシア征服の企てを最終的にあきらめさせましたが、その48年後、アテナイを中心とするデロス同盟と、スパルタを中心とするペロポネソス同盟は戦争に突入しました。後世、ペロポネソス戦争と呼ばれる戦争で、全ギ…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(17):ヘラニコス

ミュティレネ生れの歴史家ヘラニコスは、ミュカレの戦いの時10歳ぐらいでした。ですのでヘラニコスはミュカレの戦いのことを同時代の出来事として経験したことでしょう。そしてその後のデロス同盟結成とそれに自分の町が参加したことを知り、やがてアテナイ…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(16):デロス同盟

ミュティレネの人々にとってミュカレの戦いは印象的だったことだと思います。そしてギリシア連合海軍を率いるスパルタ王レオテュキデスの名前も記憶に残ったのではないかと想像します。 しかし、歴史の流れはこれ以降、スパルタではなく、アテナイの隆盛・覇…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(15):ペルシア戦争

ペルシア王ダレイオスは、イオニアの反乱にギリシアのアテナイとエレトリアが加担したことを口実に、ギリシア本土に攻め込むことを決意しました。のちに第一次ペルシア戦争と呼ばれるこの時のペルシア軍の侵攻にはミュティレネの海軍も従軍を命じられたと想…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(14):イオニアの反乱

イオニアの反乱は5年続きました。途中で反乱の首謀者だったミレトスの僭主アリスタゴラスが逃亡する、という事件もありました。アリスタゴラスの従兄弟で舅でもあったミレトス人ヒスティアイオスは反乱発生時にはペルシアの首都スサにいたのですが、そこか…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(13):コエス

3代目のダレイオス1世の治世の頃にはペルシア王国はバビロニアとエジプトを含む巨大な帝国に成長していました。ペルシア支配下のイオニア、アイオリスの町々はペルシアの軍事行動に兵を提供しなければなりませんでした。さてBC513年のこと、ダレイオスはス…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(12):ペルシアへの服属

ところでこのサルディスの陥落を、ミュティレネは最初、それほどの事件とは思っていなかったようです。しかし、やがて小アジア全体がペルシアに服属するようになると、自発的にペルシアに服属を誓うことになりました。この様子を見ていきます。 サルディスの…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(11):シゲイオンのゆくえ

さて、アテナイがシゲイオンを占領したために、ミュティレネは近くのアキレイオンに植民市を建て、そこに軍を置いて、アテナイ勢との小競り合いを続けていました。ところで、このアキレイオンというところは、ここにトロイア戦争でのギリシア側の英雄だった…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(10):アルカイオス

サッポーより10歳程度年下なのが詩人のアルカイオスでした。この人の詩も今まで読んだことがなかったのですが、今回、調べたところどうも「荒々しい」詩のようです。 アルカイオスの戦争と政治体験は現存する詩の中に反映されていて、その中でも断然多いのが…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(9):オルペウスの竪琴

サッポーまで話を進めたのに、歴史時代からまた神話伝説の時代に戻ってしまうのですが、ここでオルペウスとレスボス島にまつわる伝説を紹介したいと思います。なぜレスボス島には芸術家が輩出するのか、といういわれを説く話です。ミュティレネにはサッポー…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(8):サッポー

(左:ローレンス・アルマ=タデマ画 『サッポーとアルカイオス』の部分) ピッタコスより10歳程度年下であったのが詩人のサッポー(サッフォーとも呼ばれます)でした。サッポーは古代ギリシアの有名な詩人の一人で、のちの時代のことですが、哲学者のプラ…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(7):ピッタコス

ミュティレネの王位を独占していたペンティリダイ一族はやがて勢力が衰え、BC 7世紀頃には他の貴族たちと抗争するようになったようです。ペンティリダイについてはなかなか情報がないのですが、アリストテレスの政治学に断片的にある以下のような記述は、背…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(6):ペンティリダイ(ペンティロスの子孫)

次に述べなければならないのは古代ギリシア史において現在では暗黒時代と呼ばれている資料のない時代です。この時代の出来事を私は何とか述べたいと思うのですが、なかなか手がかりが見つかりません。例えばミュティレネは小アジアとは海を隔てていますので…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(5):ヘレスポントスの確保

さて、アルゴ号の出航という幸福な場面でこの物語から離れ、レスボス島やその東岸にあるミュティレネに戻りましょう。 前にもお話ししましたように、伝説によればアルゴ号はレスボス島にはやってきませんでした。レスボス島と名前の似たレムノス島には寄航す…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(4):アルゴー号の冒険

アルゴー号の冒険の物語の基本的な構造は、娯楽物語の王道を押さえています。つまり、イアーソーンという男が、この世の果て(当時のギリシア人にしてみたら黒海東岸のコルキスはこの世の果てと感じたことでしょう)にあるという宝物を手に入れるため、仲間…

エーゲ海のある都市の物語:ミュティレネ(3):アイオリス人の到来

ミュティレネのあるレスボス島は、トロイア戦争の頃はギリシア人が住んでいないようでした。では、ギリシア人がレスボス島にやってきた時の様子が何か伝承に残っているでしょうか? 高津春繁の「ギリシア・ローマ神話辞典」で調べたところ、断片的で異説の多…