エルゴード性とは?(2)

エルゴード性とは?(1)」の続きです。連続的な時間を扱うのは大変なので、しばらくは時間は離散的に流れると考えます。
さて、過去の値が現在の影響を与えるような確率的な時系列の例として以下のようなものを考えました。今度の数字の列は、サイコロの目の数をそのまま記録するのではなく、1つ前に記録した数字に今回出た目の数字を足す、というものです。一番最初は、サイコロの目の数をそのまま記録しますが、その後はサイコロの目に1つ前に記録した数字を足したものを記録するのです。こうすると、やはり不規則な数列を得ることが出来ますが、今度は、1つ前の記録上の数字が、次の記録上の数字に明らかに影響を与えています。このような場合でも、エルゴード性は成り立つでしょうか? つまりこの数列の(無限個の)時間平均と(無限個の)集合平均は等しくなるでしょうか?
実際に、このような数列の例を作り、グラフに表してみました。(この数列は確率的に変化するので、ここに示すのはその一例に過ぎないことに注意して下さい。)

このグラフを見れば一目瞭然、エルゴード性は成り立たないことが分かります。この数列は、どんどん正の数字(サイコロの目の数は1〜6でどの目が出てもゼロより大きい)を足していくので、時間とともにどんどん大きくなって行きます。つまり、この数列は定常的ではなかったのです。そのため、時間平均は収束しません。(無限大になります。) しかし、ある時刻を選んで集合平均をとったら、それは有限の値をとりそうなことは直感的に分かります。
ですから、これは考えた例がよくなかったわけです。待ち行列WIPは、その待ち行列が定常状態にあれば、無限に増加するようなことはありません。


この失敗を反省して、私は今度は以下のような例を考えました。
サイコロの目の数をそのまま前の記録の数字に足していたのでどんどん増加してしまったので、今度は、サイコロの目の数から3.5を引いた値を前の記録の数字に足します。このようにすると、足される数字の平均値はゼロなので、先ほどのように時間と共に無限大に近づいていく、ということはなくなるはずです。このようにして作った数列の例をグラフに示します。

このグラフから見ても、この数列はどうも定常的でないように見えます。つまり時間が経つにつれて、数列の値は、プラスかマイナスのどちらかに大きく振れていくように見えます。これは、各時刻での記録上の数字が、同一分布確率変数の和になっており、時間とともに足される確率変数の個数が増えていくためです。同一の確率分布を持つ独立な複数の確率変数の和の変動係数で述べたように、n個の同一分布確率変数の和の標準偏差は、元の確率変数の標準偏差\sqrt{n}倍になることが分かります。よってn(つまり時間)が増えれば増えるほどその時刻での値の振れは大きくなるのです。この数列も定常状態にありませんでしたので、エルゴード性は成り立ちません。1個人をピックアップした場合の値は時間とともにゼロからの偏差が増えていく確率が高いので、時間平均は、ゼロになることは少ないでしょう。一方、ある時刻で見た集合平均はゼロになるはずです。よって時間平均と集合平均は等しくありません。
エルゴード性とは?(3)」に続きます。