ザ・ゴールにおけるスループット

「企業の目的はお金を儲けること」という仮定は、「お金か、ビジョンか」で検討したように怪しいが、話を単純にするため、この仮定を正しいとしよう。お金はある意味、共通言語であるから、このように仮定してもそれほど最適行動とズレることはないだろう。「ザ・ゴール」では、次に、この目的に沿って企業活動がなされているかどうかを測定する3つの指標、すなわち、スループット、在庫、経費、を提示する。それらは、通常の定義とは異なっていて、全てがお金の量として定義されている。

  • 在庫
    • 販売しようとする物を購入するために投資した全てのお金


分かったような分からないような定義だ。 まずスループットについて検討してみよう。


ここでは「割合」という訳語が使われているが、たぶん原語は「rate」ではないかと思う。もし「rate」であれば、単位時間あたりの量という意味があるから、これは「販売を通じて単位時間に得る金額」という意味と解釈できる。


ここで「販売を通じて」と言っているのがミソで、工場から製品が出荷されたとしてもそれはスループットにはカウントされない。この定義のよいところは、売れない物をいっぱい工場から出荷して、倉庫に眠ったままになる状態をちゃんと悪い状態として把握出来るところだ。工場の視点からすれば、目標出荷数を達成すれば評価されるのであるが、問題はそれが売れてちゃんとキャッシュが会社に入ってくるかどうかだ。この定義であれば、売れなければカウントされないので会社の利益を測定するよい尺度になる。
注意しなければならないのは、この尺度が会社全体についての尺度であるということだ。スループットが思うように高くならない、という事実だけで工場を責めてはいけない。これは販売方法に問題があるのかもしれないし、そもそも需要予測が、従って生産計画が、間違っていたのかもしれない。スループットが目標を達成出来ていないとしたら、何が原因か、どこの部署に問題があるのか特定する必要があるだろう。この本「ザ・ゴール」では、主にドラム・バッファ・ロープの手法だけが強調されているが、これは市場がボトルネックではない、つまり、生産すれば必ず売れるという場合の話だ。この場合は工場に存在するボトルネックを最大限使用する必要がある。そしてその場合、ドラム・バッファ・ロープは非常に有効な手法だ。


しかし、市場にボトルネックがある場合には、市場が吸収出来るだけの製品数を生産することが重要になる。この問題は、ゴールドラットのその後発売された本の中で、たぶん取り扱われているだろう。これに関連して今、思いつくのは「チェンジ・ザ・ルール」

の以下の場面だ。そこでは倉庫内の製品在庫がどんどん膨らんでいく様子が描かれている。


まずは、倉庫のフォークリフトの運転手の様子

「いったい、何をしてやがるんだ。トラックから荷を降ろすのに、いつから2時間もかかるようになっちまったんだい」「こっちは、そんなに暇じゃないんだぞ」もう一人のトラック・ドライバーが言った。「なんで、2人しかいないんだよ」
・・・・・・・・
 フォークリフトの運転手は彼らを無視して作業を続けた。トラックのドライバーとやりあってもしょうがない。彼らの言っていることがもっともであれば、なおさらだ。・・・・・
 そこは大きな倉庫で、奥行きは500メートル以上ある。中はすでにピエルコ社の製品がぎっしり詰め込まれている。・・・・・ここ2ヶ月の間で在庫がかなり増えたことは、中の様子を見れば・・・容易にわかる。搬入ドック近くの保管スペースはすべて埋まっているので、倉庫の奥まで荷物を運ばなくてはいけない。・・・・当然、そうすぐには戻ってこられない。トラックのドライバーが苛立つのもわかる。


それから倉庫管理責任者のフレッドの様子

フレッドには重要な評価尺度が2つある。その両方とも日に日に悪化の一途を辿っていた。在庫の回転率はこれまでになく低い水準に落ち込み、納期遵守率も急速に低下していた。コストだってそうだ。しかし予算を大きく上回ることなど許されない。論外なのだ。
 解決方法は1つしかない。工場からの搬入量を減らすのだ。すべての問題は工場から運び込まれる製品の量が多すぎるのが原因だ。だが、そんな権限はフレッドにはない。
 ・・・・・彼は気が立っていた。彼にとっては理不尽極まりない状況だった。自分ではコントロールしようのないことを基準に評価されるのだ。


この解決策は、結局、倉庫からのプルで工場に材料を投入(=リリース)することだったが、チェンジ・ザ・ルールで取り扱っている状況は、ただ、市場にボトルネックがあった、という単純な状況ではない。品種数が多い場合の欠品や安全在庫の話が絡んでいる。この場面については別個に検討が必要だ。


市場が吸収出来るだけの製品数を生産するための工場運用方法は、ドラム・バッファ・ロープ(これは本質的には工場内のボトルネック工程からのプルである)と製品倉庫からのプルの併用、であろう。しかし、本当それでうまくいくのかは、別途、検討してみたい。