GI/G/s待ち行列の平均待ち行列長の近似式(1)

GI/G/s待ち行列の平均待ち行列長の近似式を求めます。
まず、「重負荷極限定理」から

  • \lim_{u\rightar{1}}(1-u)L_q=\frac{c_a^2+c_e^2}{2}・・・・(1)

ここでuは装置の稼働率L_qは平均待ち行列長、c_aはジョブの到着間隔の変動係数、c_eは処理時間の変動係数、です。ここからuが1に近い場合の近似式として

  • L_q\approx\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{1}{1-u}・・・・(2)

を導くことが出来ます。しかしこれはuの値が小さい場合に成立する保証はありません。実際、式(2)でu=0とするとL_q=(c_a^2+c_e^2)/2となりますがこれは正の値です。しかし、u=0の時にはジョブがまったく到着しないのでL_q=0になるはずです。このようにuの値が1から離れると食い違いが出てきます。そこで、次に、L_qについてよく知られているM/M/s待ち行列を考察することにします。


M/M/mにおける待ち時間の式の導出(3)」の式(19)と「M/M/mにおける待ち時間の式の導出(2)」の式(14)をこの場に記号をそろえて書き直すと以下のようになります。

  • L_q(M/M/s)=\frac{s^su^{s+1}}{s!(1-u)^2}p_0・・・・(3)
  • ただし
    • p_0=\frac{1}{\Bigsum_{k=0}^{s-1}\frac{(su)^k}{k!}+\frac{(su)^s}{s!(1-u)}}・・・・(4)

ここでL_q(M/M/s)という記号はこの平均待ち行列長がM/M/s待ち行列のものであることを示すために用いました。式(1)はGI/G/s待ち行列で成立するので、もちろんM/M/s待ち行列でも成立します。そのことを確かめておきます。まず、M/M/s待ち行列ではc_a=1c_e=1なので式(1)から

  • \lim_{u\rightar{1}}(1-u)L_q(M/M/s)=1・・・・(5)

です。一方、式(3)から

  • (1-u)L_q(M/M/s)=\frac{s^su^{s+1}}{s!(1-u)}p_0・・・・(6)

となります。ここで

  • \frac{s!(1-u)}{p_0}

を計算します。

  • \frac{s!(1-u)}{p_0}=s!(1-u)\Bigsum_{k=0}^{s-1}\frac{(su)^k}{k!}+(su)^s・・・・(7)

よって

  • \lim_{u\rightar{1}}\frac{s!(1-u)}{p_0}=s^s

よって

  • \lim_{u\rightar{1}}\frac{p_0}{s!(1-u)}=\frac{1}{s^s}・・・・(8)

また

  • \lim_{u\rightar{1}}s^su^{s+1}=s^s・・・・(9)

なので、式(8)(9)から

  • \lim_{u\rightar{1}}\frac{s^su^{s+1}}{s!(1-u)}p_0=s^s{\times}\frac{1}{s^s}=1

よって式(6)から

  • \lim_{u\rightar{1}}(1-u)L_q(M/M/s)=1

となって式(5)に一致します。このように

  • \lim_{u\rightar{1}}(1-u)L_q(M/M/s)=1・・・・(5)

ですが、uが1に近くない時には

  • (1-u)L_q(M/M/s)=\frac{s^su^{s+1}}{s!(1-u)}p_0・・・・(6)

です。そして式(6)の右辺はu\rightar{1}で1に収束するのでした。そこで、GI/G/s待ち行列について式(1)と(6)を同時に成り立たせる式の候補のひとつとして

  • (1-u)L_q\approx\frac{c_a^2+c_e^2}{2}\frac{s^su^{s+1}}{s!(1-u)}p_0・・・・(10)

を考えることが出来ます。これは1つの候補であって、まだ別の候補があるかもしれません。すくなくともこの近似式は、M/M/sの時に正確な値を示す点で式(2)より精度が高い近似式になっています。そこで今はこの式を採用することにします。式(10)に式(6)を代入して

  • (1-u)L_q\approx\frac{c_a^2+c_e^2}{2}(1-u)L_q(M/M/s)

よって

  • L_q\approx\frac{c_a^2+c_e^2}{2}L_q(M/M/s)・・・・(11)

これがGI/G/s待ち行列の平均待ち行列長の近似式です。