ラビュリントイオ・ポトニア(迷宮の女主人)(12)

英語版のWikipediaの「Potnia」の項から

ポトニア


ポトニアは「女主人、貴婦人」を意味する古代ギリシア語であり、女神の称号である。この言葉はミュケーナイ時代のギリシア語から古典期ギリシア語に同じ意味で引き継がれ、数柱の女神に適用された。類似した言葉にデスポイナ「女主人」という称号があり、これはアルカディアの儀式の神秘劇の名を明かされない地下の女神に与えられていた。彼女はのちに、コレー(ペルセポネー)、「娘」、入信者を死から生と不死へと導く生死の再生サイクルにおけるエレウシースの神秘劇の女神、と融合した。カール・ケレーニイはコレーを、ミノア時代のクレタ島クノッソス宮殿をたぶん主催していたであろう、名を明かされない「迷宮の女主人」と同じであると考えている。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/50/Lady_of_Auxerre_Louvre_Ma3098_n2.jpg

  • オーセールの貴婦人。クレタ出土のアルカイック期(640BC)の像。これはミノアの女神の1つであり、たぶんコレー(娘)かデスポイナ(女主人)に同定される。


語源

ポトニア(ギリシア語:πότνια、「女主人」)は、主として女神か女性を呼ぶの用いられる詩的な称号であり、これの男性の対応物はポシス(πόσις)である。その仮定された印欧祖語の形*pot-niha-「女主人」「貴婦人」「妻」は*pótis「夫」の配偶者である。ラテン語hospēs「主人」サンスクリット語páti-「主人」「夫」、女性形pátnī-「貴婦人」「妻」。ポトニアはミュケーナイ期ギリシア語で書かれた線文字B のpo-ti-ni-jaで裏付けられた。この言葉は同じ意味で古典期ギリシア語に引き継がれた。これに関連するギリシア語の言葉はデスポイナ(印欧祖語*dems-potnia 意味は「家の女主人」から"Des-potnia")である。

起源

 自然の、そして誕生と死の女神の像は、青銅器時代の間、ミノアとミュケーナイの宗教の両方で支配的であった。ミュケーナイの宗教では彼女はポトニアの称号で知られていた。この期の最も早期の参照は、ピュロスとクレタのクノッソスで見つかった1450-1300BCの年代の、線文字B(ミュケーナイ期ギリシア語)の音節文字で書かれた碑文である。ピュロス出土の多くの粘土板には、付随する語を伴わないpo-ti-ni-ja(ポトニア)が見出されている。チャドウィックは、彼女はミュケーナイ人の母なる女神であると示唆している。ピュロスの近くのパキヤネス遺跡に彼女は重要な神殿を持っていたようである。ワナックス(wa-na-ka)はミュケーナイ宗教において彼女の配偶者であり、この称号は通常、冥界の王としての神ポセイドン(po-se-da-o)に適用された。ポセイドーンのもうひとつの添え名はe-ne-si-da-o-ne (「地を揺する者」)であり、アムニソス(クレタ)の洞窟でエネシダオンはエイレイテュイアの崇拝と関係している[8]。彼女は神聖な子供の年ごとの誕生に関係する自然の女神であり、以下の言葉が言われていた。「力強いポトニアが強き息子を生んだ」。
 クノッソス出土の銘文は「迷宮のポトニア」(迷宮の女主人)に言及しており、彼女はたぶんクノッソス宮殿を主催していた(da-pu2-ri-to-jo,po-ti-ni-ja)。アーサー・エヴァンスが発見した有名なミノアの印鑑は、槍を見せびらかし、後ろ立ちのライオンが側面に立つ山の表現の上に立つ名前の知られない女神を示しており、この表現はホメーロスのポトニア・テロン(獣たちの女主人)に類似しているようにみえる。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f4/NAMA_Art%C3%A9mis_Orthia.jpg

  • アルカイック期の象牙に掘られたポトニア・テロン(獣たちの女主人)の通常の姿勢をとった女神アルテミス・オルティアの像。アテネ国立考古博物館。


 クノッソスとピュロスで見つかった線文字Bのいくつかの粘土板はポトニア(女主人)に言及している。ポトニアはほとんど常に特定の場所や女主人の機能を特徴づける添え名を伴っている。po-ti-ni-ja,a-si-wi-ja (a-si-wi-ja = 民族の形容詞、たぶん「アジア(リュディア)の女」)、si-to-po-ti-ni-ja (sitos = 小麦か大麦の「粒」。おそらくデーメーテールか彼女の先行者を指している)、po-ti-ni-ja,i-qe-ja (ポトニア・ヒッペイア、「馬の女神」)。クノッソスのある粘土板はa-ta-na-po-ti-ni-ja「ポトニア・アタナ」に言及しており、これはのちのホメーロスでの形に類似した形である。

古典期ギリシア

 古典期ギリシアではポトニアという称号は通常女神デーメーテール、アルテミス、アテナ、ペルセポネーに適用される。この称号は大地の女神ガイア(ゲー)にも与えられた。類似する称号デスポイナ「女主人」はアルカディアの宗教の神秘劇の、名前を知られない女神に与えられ、のちにエレウシースの神秘劇の女神であるコレー(ペルセポネー)と融合した。ホメーロスイーリアス(xxi 470)でポトニア・テロン(獣たちの女主人)に言及しているが、彼女は明らかにアルテミスである。カール・ケレーニーはペルセポネーを名前の知られない「迷宮の女主人」(迷宮のポトニア)と同一と考えている。デーメーテールとペルセポネーはアルカディアの宗教の2柱の偉大な女神であった。オリュンピアのパウサニアスによれば彼女たちはデスポイナイ(デスポイナの複数形)とも呼ばれた。デーメーテールとペルセポネーは、冥界と植物の女神として二重の機能を持つ2柱の大地の女神として「デーメーテーレス」とも呼ばれた。